「女性に投票したい」という流れを生んだ森発言
品川区で無所属として立候補、2位当選した森澤恭子さん(42)は選挙期間中、街頭で活動している際に、ある女性からこう声をかけられたという。
「今回はあなたか(もう一人の女性候補者である)阿部祐美子さん(立憲)、どちらに入れようか迷っているの。でも女性に入れることは決めているの」
定数4のところ、8人が立候補した品川区では、公明、無所属、共産、立憲の4人が当選(自民党は2人とも落選)。4議席のうち2議席を女性が占めた。無所属で立候補した森澤さんは、事前の世論調査では当初、有力候補の中で最下位と予想されていたが、結果は2位当選。トップとは775票差だった。
今回の都議選では各社の議席予測が外れたことも指摘されている。そこには入院していた小池都知事が最終盤になって突然、都民ファの応援に駆け回ったことも影響しているだろう。
だが、森澤さんが選挙前から感じていた空気は「政党への不信」と「女性への期待」だった。コロナ対策の遅れや東京五輪への対応は、自民党など既成政党への不信感となった。そして「女性に投票したい」という流れができたきっかけの一つは、2月の五輪組織委員会会長だった森喜朗氏の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「組織委員会の女性はわきまえておられる」という発言だったと、森澤さんは実感している。
男性から「もっと女性が活躍できる社会に」と言われた
「その頃からもっと政治に関心を持って行動しないと、という女性が増えてきたと感じています。チラシ配りなどをしてくれるボランティア希望者も増えたのですが、多くが子育て世代の女性たちでした」
選挙期間中もチラシを受け取ったり、声をかけてくれたり、政策についてメールで質問してきたりする人の数は、前回の都議選よりもはるかに多かった。子育て政策だけでなく、「都立高校の男女別定員数をどう思うか」「選択的夫婦別姓についての考えを聞かせてほしい」というジェンダーに関する質問もあった。中にはIT企業に勤める男性から、「女性上司のもとで働いているが、もっと女性が活躍できる社会にしてほしい」と言われたこともある。
女性議員の強みは生活者感覚だ。女性議員が増えた要因として、永田町中心で決まる生活者の感覚からかけ離れたコロナ対策への不満が高まっていたという側面もあるだろう。一方で、この国のジェンダー不平等の実態をどうにかしてほしいという思いもあったのではないか。森発言によって明らかになった男性意思決定層の本音や、ジェンダーギャップ指数で156カ国中120位という体たらく。ジェンダー後進国日本の実態に多くの人が気づき、この不平等の解消を求める声も、女性たちの当選を後押ししたのではないだろうか。