「セクハラが楽しくて仕方がないおじさんたち」
森澤さん自身、2人の小学生の子育てをしながら議員活動をしており、夜の会合や週末の行事への参加は難しい。これまで男性議員なら当たり前に思われていた夜も週末もない働き方でなく、子育てや介護中の人でも議員になれるよう、週末は休むなど持続可能な働き方を実践している。子育ては本来女性だけがすべきものではないが、それでも子育て中の女性議員が増えることで全体の働き方は変わってくるだろう。
女性が立候補をためらったり、議員活動を続けられなかったりする大きな壁が働き方の問題と同時に、ハラスメントだとされてきた。地方議員の6割がハラスメント被害に遭ったことがあるという内閣府の調査もあり、候補者均等法の改正の際には候補者へのハラスメント防止策が盛り込まれた。
都議会では2014年、塩村文夏都議(現・参院議員)が議場で質問した際に、「早く結婚したほうがいいんじゃないか」という、とんでもセクハラヤジが発せられ、大きな問題となった。ヤジの口火を切ったのは自民党の男性議員。当時の自民党は59人が立候補し、全員当選という巨大与党で、「セクハラが楽しくて仕方がないおじさんたちが議席の大半を占めていた」と塩村さんは話している。
その後女性都知事が誕生し、女性議員が3割を占めるまでになった都議会で、今でもヤジはあるが、セクハラ的なものはなくなったという。森澤さんも「少なくともこの4年間、ハラスメント的なヤジや発言はなかった」と話す。女性議員が増えることは、こうしたハラスメントが許されない空気を作っていくことにもつながるのだ。
与党は候補者を女性に差し替えづらい
都議選での女性の躍進は、今秋予定されている衆院選にどんな影響を及ぼすのだろうか。候補者均等法の改正にあたり、政党が女性議員の数値目標を義務化することが自民党の強い反対に遭い、見送られたことは先にも書いたが、そこには小選挙区という選挙制度の問題や、候補者選定にあたって「現職優先」という壁がある。自民党は長く続いた安倍政権下で選挙に勝ち続け、衆院で277議席を占める(うち女性は21)。
「自民党など現職議員が多い与党は、候補者を女性に差し替えることはやりにくい。さらに自民党は候補者選定に地方組織が大きな権限を持っていて、地方ほど男性が力を握っているという難しさもある」
世界各国のクオータ制(あらかじめ議席や候補者の一定数を女性に割り当てる制度)に詳しい上智大学の三浦まり教授は、筆者のインタビューに対してこう答えている。
それでも、安倍晋三前首相は2年前の参院選の際に、「次の選挙では女性候補者を2割にするよう努力したい」とも話している。三浦さんはこうも指摘した。
「新人議員の少なくとも半数を女性にするなど、ジリジリとこの目標に近づけることはできるはずだし、有権者も注視していかなければならない」
都議選の結果から私たちが学んだことは、有権者の行動によって「変えられる」ということだ。現在、衆院で女性議員の占める割合は9.9%(2021年6月時点)。政治分野のジェンダーギャップが156カ国中147位という現状を変えることができるのは、有権者だけなのだ。