電子マネーとは異なる性質

ウォレットに入ったデジタル人民元は、支払いに使うことができる。この場合、デジタル人民元は、コインの型で流通する。それは、つぎのような意味だ。

たとえばAさんが自分のウォレットから1デジタル人民元をBさんに支払うとする。すると、Aさんのウォレットで残高が1デジタル人民元だけ減り、Bさんのウォレットで残高が1デジタル人民元だけ増える。そして、Bさんはその人民元を他の支払いに使うことができる。これらの取引は、銀行口座には反映されない。

つまり、デジタル人民元は、それ自体で価値があるものとして機能するわけである。この点が電子マネーとの違いだ。

電子マネーの取引とは、銀行口座の残高を増減させる指示に過ぎない(このため、中国の銀行に預金残高を持たない日本人には、Alipayなどを使うことができない)。

中央銀行デジタル通貨においても、このような仕組みにすることは可能であった。しかし、デジタル人民元は、そうはしなかった。

このような仕組みになっているため、4大銀行に預金を持たない人でもウォレットを持つことができれば、デジタル人民元を使うことが可能になると考えられる。誰かから売り上げ代金などの形でデジタル人民元を送ってもらい、それを支払いなどに使えばよいのだ。

ビットコインなど仮想通貨と同じ

デジタル人民元がウォレットの間を転々流通していくのは、ビットコインなどの仮想通貨の場合と同じものだ。

仮想通貨の場合には、ブロックチェーンを用いてこれが運営される。たとえばビットコインの場合だと、Aさんのウォレットから1ビットコインがBさんのウォレットに送金されるという情報を、インターネットを通じて、複数のコンピューターのネットワークに送信する。

これらのコンピューターは、その取引が正しいものであることを確認する(過去の記録に照らして確かにそれだけの残高を有していること、Bさん以外に二重送金をしていないことなど)。正しければ、その取引を記録していく。

ビットコインなどの仮想通貨においては、誰でも取引を記録するコンピューター(ノード)になれる。コンピューターがある種の計算問題を解き、そこで得られる値を暗号化してつぎのブロックに送る。この仕組みによって、記録内容を改竄かいざんできないような仕組みになっている。これを「プルーフ・オブ・ワーク」という。

このようなブロックチェーンの仕組みを、「パブリック・ブロックチェーン」という。一定期間の取引をブロックに記録し、それを時系列的にチェーンのようにつなげていくので、「ブロックチェーン」と呼ばれる。

デジタル人民元の仕組みが具体的にどうなっているのかは、まだ公表されていない。ブロックチェーンを用いるのが自然な形だと考えられるが、そうではないという関係者のコメントもある。