※本稿は、野口悠紀雄『良いデジタル化 悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
準備が進むデジタル人民元
中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタル人民元の準備が着々と進んでいる。2020年10月には、深圳をはじめとするいくつかの都市で実証実験が行われた。12月には蘇州で実験が行われた。この実験を通じて、デジタル人民元の仕組みがかなり分かってきた。
デジタル人民元の導入はきわめて大きな変化であり、場合によっては、日本に対しても甚大な影響を及ぼす可能性がある。そこで、どのような仕組みになっているのかを説明することにしよう。
デジタル人民元は二層構造になる。すなわち、中国人民銀行が利用者に直接にデジタル人民元を供給するのではなく、間に仲介金融機関が入る。これまでの実証実験では、4大商業銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国農業銀行)が仲介金融機関になっている。
人民銀行は、4大商業銀行にデジタル人民元を供給する。これは、現在、中央銀行から民間銀行に紙幣が供給されるのと同じ仕組みだ。ただ、物理的な存在である紙幣の代わりに、デジタル人民元というデジタル情報が供給されるという違いがあるだけである。
4大銀行がウォレットを提供
デジタル人民元の利用は、4大銀行が発行するウォレット(電子財布)によって行われる。これは、スマートフォンのアプリだ。デジタル人民元を利用しようとする人は、スマートフォンにこのアプリをインストールする。
その際、人民銀行による承認が必要とされる。本人確認の厳格さなどに応じていくつかの段階が設定され、利用可能なデジタル人民元に限度が設定される。
簡単な本人確認であれば利用限度額が低くなり、本人確認を厳格にすれば利用限度額が高くなる。無制限の利用が可能になるランクがあるのかどうかは、分からない。
4大銀行に預金口座を持つ人は、その残高を自分のウォレットに移すことができる。