外国人はデジタル人民元を使えるのか

日本人の立場から見て最大の関心事は、外国人が使えるかどうかだ。これについては、まだはっきりしない。技術的な観点だけからいえば、これまで述べてきたことから明らかなように、可能と考えられる。

ウォレットとはスマートフォンのアプリに過ぎないので、世界中の誰でもスマートフォンを持っていれば、それをダウンロードすることができる。そして、デジタル人民元を持っている誰かから送金をしてもらえば、それを他の支払いに用いることができる。

たとえば、日本の輸出業者が中国の企業に輸出し、その代金をデジタル人民元で受け取るといったことが考えられる。

ただし、ウォレットは、人民銀行に申請して審査を経ないと、ダウンロードできない。つまり、誰がどの程度の限度でデジタル人民元を使えるかは、人民銀行の裁量に任されている。したがって問題は、人民銀行が外国人の利用を認めるかどうかということに尽きる。

すべては中国当局の裁量次第

仮に外国人の使用を無制限に認めてしまうと、中国の富裕層が資産を海外で保有するために用いられるかもしれない。そうしたことが行われると、中国から大量の資本流出が起きてしまう。

中国当局としては、こうした事態はぜひとも阻止しなければならない。だから、外国人の利用を無制限に認めることはないだろう。しかし、一定限度で監視付きで認めることは、大いにあり得る。

野口悠紀雄『良いデジタル化 悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)
野口悠紀雄『良いデジタル化 悪いデジタル化』(日本経済新聞出版)

たとえば、一帯一路の参加国やアフリカ諸国に対して、利用を認めていくことは十分に考えられる。援助を与える場合にデジタル人民元の形で与え、これらの国の中でも流通を認めるということだ。そうなると、デジタル人民元が、国際的な通貨として流通することになる。

では、日本はどうだろうか?

日本に迷惑を与えないという外交政策的な配慮から、これを認めないことは十分に考えられる。しかし、貿易取引など取引実態がある場合には、巨額であっても利用も認めることは考えられる。また、取引額が少額である場合には、そうした条件を付さずに、自由な利用を認めることもあり得る。

これは、まったく中国当局の裁量によるので、予測のしようがない。ただし、技術的には可能なことであるから、日本としては、それに備えておく必要がある。