石巻発ローカルベンチャーズたちの相次ぐ成功

そういった逆境をともに切り抜けたISHINOMAKI2.0からスピンアウトしていった仲間である「ニュータイプ石巻人」は、世界さえも驚かす小さな産業革命を起こし始めます。

その一つが、石巻出身の古山隆幸くん率いる「イトナブ」という組織。

「震災から10年後の2021年までに石巻からIT技術者を1,000人育てる」という壮大な目標を掲げ、2013年に設立。「IT」×「遊ぶ」×「学ぶ」×「営む」という掛け合わせから生まれた「イトナブ」という名前の通り、小学生や中学生が学校帰りにプログラミングを無償で学べる場を作るほか、地元の工業高校で実践に役立つ授業を持っています。

また、震災翌年から行っているハッカソンは、日本最大級の規模にまで成長。地方ではなかなか起こり得なかったプログラミングスキルを学ぶ場を作ることで、子どもたちの間に新しい職業選択の価値観を生み出しました。

コードを書いている人の手元
写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです

既存産業がダメージを受けるなか、ITという新しい産業を生み出してしまったイトナブの存在は、これからの日本のローカルにおける希望の光のような存在です。

すべてを失った寿司職人が立ち上げた家具工房

そしてもう一つが、元寿司職人の千葉隆博さんが代表を務める石巻工房という、実験的かつ実践的な家具工房。

千葉さんは、震災によって、自身の職場である寿司屋をはじめあらゆるものを一気になくしてしまいました。しかし、震災直後はプロ顔負けのDIYスキルを生かし、インパクトドライバー片手に街の便利屋さんのごとく、さまざまな修復作業に没頭します。

その行動力は、東京の建築家やハーマンミラーという高級家具メーカーの家具職人やデザイナー、経営者との運命的出会いを引き寄せます。

仮設住宅での不自由な生活を改善するため必要とされる家具を一緒に作るワークショップ活動から始まった石巻工房ですが、いまでは東京にショールームを構え、ミラノサローネをはじめ名だたる世界の家具イベントに出展すると同時に、大企業のオフィスにも導入され、NYのハーマンミラー旗艦店においても販売。

グッドデザイン賞はじめ、さまざまな賞を獲得するというブランドにまで成長しています。