ファストフード禁止ぐらいやらないと間に合わない
【水野】「足るを知る」を実現するためには、要らないものを大胆に手放さないといけませんね。食品ロスの実態や、過剰なまでのコンビニ数でも一目瞭然ですが、私たちの社会は要らないものを作り続けています。図らずもコロナ禍でオンラインのコミュニケーションも普及しましたから、新幹線で日帰りしなければならない急用なんてそこまでないはずです。
【斎藤】同感です。ですから、「足る」を強制的に覚えさせるぐらいしないと。これは日本の話だけではなく、世界全体は今の富裕層に甘過ぎるし、彼らに「足るを知れ」と言ったところで、「我々は寄付をしているから」と言い逃れをするでしょう。
その程度では「足るを知る」とは言えません。たとえば、プライベートジェットの禁止、スポーツカーやヨットの禁止ぐらいは当然です。世界のトップ1%の人たちの二酸化炭素排出量は、世界の半分の人たちの排出している量と同じです。
私たちも、近距離の飛行機移動を禁止したり、ファストフードやファストファッションを禁止することも含めて、もっと抜本的に今の生活を見直す必要があるでしょう。それぐらいしないと間に合わないところまで環境危機は迫っているのに、そこに向き合わないのが昨今のグリーン・ニューディールや緑の経済成長理論だと思うんですね。
タバコをやめるように経済成長をやめよう
【斎藤】「足るを知る」、あるいは経済成長をやめるイメージとして、禁煙を思い浮かべるとわかりやすいんです。禁煙は、最初はつらいんですね。一日中、タバコのことを考えてしまう。でも、1カ月、2カ月、半年と禁煙をすると、もうタバコのことなんてほとんど考えなくなるし、その結果、ごはんがおいしくなったり、子どもが近くに寄ってきたりとポジティブな変化が起こる。それによって初めて、「ああ、やめておいてよかった」ということを実感するわけです。
【古川】要らないものをなくしていくための我慢は大事だと思います。ただ、「これは駄目だ」と頭ごなしに言われても、なかなか人間はやめることができないし、かえって反発を生んでしまうのではないでしょうか。
まずは不都合な真実から目を背けずにそれを直視することが大切です。人間100%の善人もいなければ、100%の悪人もいない。人間の欲求は放っておくと際限なく大きくなる可能性がありますが、それを追求していくと自分たちの生存自体が危うくなるという不都合な真実がわかれば、「これはやめなきゃいけないな」と自ずから思うようになると思うんですね。だから、私たちにとって不都合な真実や未来を隠さずにきちんと知らせたうえで、必要な制約をかけていく。それが政治の役目だと思います。