主力の自動車産業にも悪影響が
その状況下、汎用型の生産ラインを用いて生産される半導体の中でも、車載半導体の不足が深刻だ。その影響が大きく出ている国の一つが韓国だ。
韓国にはサムスン電子とSKハイニックスという大手半導体メーカーがあるが、車載半導体は輸入に依存している。車載半導体不足の影響は深刻とみられ、5月、韓国の自動車生産は9カ月ぶりの低水準だった。現代自動車では海外の一部工場の稼働も停止している。
韓国経済にとって、自動車は半導体に次ぐ主要輸出品目であり、雇用への影響も大きい。車載半導体の不足によって自動車生産の減少傾向が続くと、景気回復のモメンタム(勢い)は弱まる恐れがある。
その場合、労働組合の不満も増しやすい。半導体不足によって現代自動車の業績が市場参加者の予想を下回り、電気自動車(EV)生産強化の取り組みに遅れが出る恐れもある。韓国経済にとって、車載半導体の確保などのために日米との連携を目指すことの重要性は増していると考えられる。
世界経済の“ゲームチェンジ”が起きようとしている
それに加えて重要なのが、中国の台頭に対応すべく、米国が日台などとの連携強化を重視しているとみられることだ。それが中長期的な韓国経済の展開に与えるインパクトは過小評価できない。以下、半導体のロジックとメモリ分野ごとにその影響を考察する。
ロジック半導体分野にてバイデン政権は、最先端の半導体製造技術が中国に伝わらないよう、補助金政策を用いてTSMCに対米投資の積み増しを求めたようだ。その政策の下、インテルやサムスン電子も米国での生産体制を強化するとみられる。見方を変えれば、米国は中国との競合に備えて、経済運営の在り方を自由放任から必要に応じて市場に介入するものに修正しつつあると考えられる。
それは、世界の経済運営の“ゲームチェンジ”を示唆する。わが国では茨城県つくば市にTSMCが政府の助成を受けて半導体のパッケージング技術などの研究開発拠点を設ける。また、熊本県にてTSMCが半導体工場の建設を検討しているとの報道もある。ロジック半導体の生産能力強化を目指すサムスン電子がそうした変化に対応するには、国レベルでの姿勢の明確化が欠かせない。