中米エルサルバドルが世界で初めてビットコインを法定通貨に採用した。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔さんは「暗号資産の支持者は『歴史的転換点を迎えた』と盛り上がっているが、ささいな出来事にすぎない。ビットコインが既存の法定通貨に取って代わることはない」という――。
ひび割れた地面からのぞくビットコイン
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法定通貨になっても実体経済での運用は難しい

6月9日、エルサルバドル議会がビットコインを法定通貨とする案を賛成多数で承認したことが大々的に報じられた。現在、同国の法定通貨は米ドルだが、これも存続させるという。法定通貨としての使用は90日後に法制化され、ビットコインとドルの交換レートは市場で決定されることになっている。

法定通貨なので財・サービスへの支払いや納税をビットコインで行うことが可能になる。前回のコラム「『ビットコイン大暴落は止まらない』コロナ終息で暴かれる暗号資産の“本当の値段”」を非常に多くの方にお読みいただいたこともあってか、エルサルバドルという超小国の動きながら、「暗号資産の法定通貨化」という刺激的な動きをどう考えるかという照会をたくさん頂戴している。以下では論点を絞って、筆者の思うところをお示ししておきたい。

確かに法定通貨に指定されれば、強制通用力を持ち、決済や価値尺度、価値貯蔵といった通貨の3機能に沿った手段として使われる可能性を高める。「History!(歴史が動いた)」というブケレ大統領の言葉に呼応するように暗号資産に期待を寄せる人々は非常に盛り上がっている。だが、考えれば考えるほど不安がある。

理由は複数あるが、今回は以下の3点から説明してみたい。それは①エルサルバドルという国家規模、②ビットコインの制御可能性、③国際社会の協力体制、という3つだ。この3点から今回のエルサルバドルの動きが一定の頑健性と拡張性を持って実体経済で運用されていくのは難しいように感じている。