妻とのコミュニケーションに悩む夫たちの話し方には、ある共通点が存在するという。脳科学・AI研究者の黒川伊保子さんは「家族との会話は基本的に5W1Hで始めてはいけない。それは問題解決のための対話の始め方であって、心を通わせるための会話ではない」という——。

※本稿は、黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)の一部を再編集したものです。

喧嘩するカップル
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母と子の対話が弾まない理由

先日、友人から、悩みを聞かされた。

息子と、心を通わせる話ができない、と。

20代半ばのご子息が、会社の転勤で、実家に戻ってきたのだという。喜ばしいことなんだけど、まったく、会話が弾まない。自宅にいても、携帯端末を見ているばかりで、自発的に話すこともない。こちらの投げかける話題にも、「ふ~ん」「わかった」と紋切り型に返すだけ。

まるで、対話の消火器なのよ。あれじゃ、女性にモテるわけもなく、どうしてあげたらいいのかしら……と、美しく賢くエレガントな彼女が、珍しくため息をついた。

私は、ふと、過日、若い女性から寄せられた質問を思い出した。曰く、8歳の息子が、私と会話してくれなくなった。少し前まで、小さな恋人のように、何でも話してくれたのに。父親とは嬉しそうにしゃべるのに、私にはめんどくさそうにする。「私なんて、もういなくてもいいのかと、悲しくなります」と、彼女は涙ぐんだ。

私は、「あれ?」と思った。8歳の男の子なんて、好奇心に溢れていて、母親に何でもしゃべりたくてしかたないころだ。母親と断絶するのは珍しい。

賢い母親がしがちな会話

そこで私は質問した。「日ごろ、どんなふうに話しかけてますか? たとえば、昨日、学校から彼が帰ってきたときの会話を教えてください」

彼女は、「学校どう? 靴、揃えたの? 早く宿題やりなさい、でした」と答えてくれた。日ごろの会話が透けて見えるようである。「食べ終わったら、さっさとお風呂に入って」「明日の用意はできたの?」「なんで、○○しないの?」「だから、言ったじゃないの」

真面目で、一生懸命で、子どものことを何よりも大切にしている賢い母親がしがちな会話。5W1H型の質問(なに? いつ? どこ? 誰? なぜ? どのように?)と、命令と叱責で構成されている。

でもこれ、よく考えてみて。「学校、どう? 靴、揃えたの?」という会話、帰ってきた夫が「今日、何してた? めし、できてるのか?」と聞くのと、まったく同じ話法なのである。話が弾むわけがない。

実は、家族との対話は、基本5W1Hで始めてはいけないのだ。それは、ゴール指向問題解決型といって、「目標を合理的に達成するための手段」としての会話の始め方。心を通わす会話にはなりえない。