「俳優を一生の仕事にする」。そう決意したきっかけが、1985年、舞台『ピサロ』日本初演への出演だった。『ピサロ』は16世紀、167人の寄せ集めの兵を率いて、2400万人のインカ帝国を征服した、成り上がりのスペインの将軍ピサロの物語。85年の初演当時に山﨑努が演じたピサロ役を2020年、PARCO劇場のリニューアルオープンに際し、渡辺謙が演じるはずだった。しかし、コロナ禍で初日は延期、45回のうちわずか10回の上演しかかなわなかった。その作品を21年、再演する。コロナを越え、渡辺謙は作品について、ひいてはエンターテインメントについて何を思うのか。

日本で流行した作品が世界には届かない

コロナ禍で日本のエンターテインメントのガラパゴス化がより明らかになってしまいました。日本で流行した作品が世界には届かない。人と人との交流が激減したこの時代にあっても人に伝わるクオリティに達していないのです。舞台『ピサロ』に臨むにあたっても、テクニカルに走るのではなく、より深くテーマやスケールを伝えねばなりません。

『ピサロ』では、同じ人間でありながら、スペインとインカ帝国と、価値観もテーマも相容れない人間たちが描かれています。最後まで理解できないこともあれば、非常に目の覚めるような真実に出合う瞬間もある。これは今の世相に通ずる部分かもしれません。