一方、憲法9条に自衛隊を軍隊として明記するというのが、改憲意欲が高い安倍晋三前首相の悲願である。これも“いまさら”感に溢れたおかしな話だ。なぜなら自衛隊は実質的にはすでに軍隊だからだ。しかも、日本の軍事力は世界第5位。自衛隊も正式な英語表記こそ「Self-Defense Force」だが、すでに「Military Force」(国軍)という認知が世界では一般的なのだ。

実際、海上自衛隊は英語では自らを「Japan Navy」(海軍)と呼んでいる。防衛省にいたっては、英語表記は「Ministry of Defense」だが、攻撃的なアメリカの国防総省だって「Department of Defense」と同じ言葉を使っている。それに、いまの安保法では集団的自衛権を認めていて、日本自体が攻撃されていなくてもアメリカなどの同盟国が戦争となれば一緒に戦うことになる。どこから見ても実態は完全な軍隊なのだ。このように、現在の自衛隊にとって、憲法は何ら足かせとなっていないのだから、改憲論にあたって9条の議論は意味がない。

自民党の憲法草案は根本的に間違っている

私自身は、憲法をこのまま改正しなくていいとは思っていない。ろくに日本のことを理解していないGHQが急ごしらえでつくったものだからだ。憲法改正のハードルが異常に高く設定されているのも、占領が終了したあと、日本人の手で書き換えられると、また「悪い日本」に戻ると思っていたからだろう。それに、当時のアメリカで流行していた人道主義や男女平等の思想などが執拗に強調されている半面、本来日本国憲法にうたわれるべき項目がいくつも抜け落ちている。

たとえば地方自治。いまの憲法の第8章は「地方自治」というタイトルだが、条文にはその主体となるべき「地方自治体」という言葉はひとつもなく、あくまでも「地方公共団体」となっている。地方自治に必要な立法、行政、司法の三権利の記述もない。条例こそつくれるが、できるのは中央政府が決めた法律の範囲内のことだけ。だから、コロナ対策で知事が力を発揮しようにも、通天閣やレインボーブリッジの色を変える程度のことしかできない。地方が独自に世界から人材や資金、あるいは企業を集めようにもできない。地方にかけられた呪縛を憲法改正で解かない限り、地方創生は不可能なのだ。

だから、新憲法の改正ポイントの第一は、本来の地方自治・地方創生が可能になるような内容にすることだ。その他、教育に関しても項目を設け、21世紀に活躍できる人材を育てるにはどうしたらいいかを明記すべきだ。日本が直面している重要課題である少子高齢化に関する家族や戸籍についての項目も当然必要になってくるだろう。「2度と同じ過ちは犯しません」という宣言ではなく、世界トップクラスの工業化を果たした日本が世界にどう貢献していくのか、なども謳う必要がある。