「借金」の拡大を拒否していたアウンサンスーチー氏

さらに、800人以上の市民を虐殺し、4000人以上を不当に拘束し続けながら、悪いのは全てアウンサンスーチー氏だといった類いのうそを垂れ流している国軍が権力を握っている。この状況でなお、「ミンアウンフライン国軍司令官は、たとえ人殺しをしても日本への借金の返済だけは絶対に行う」と主張する準備のある人は、よほどのお人よしか、さもなくば単なるうそつきだろう。

もともと国家顧問としてのアウンサンスーチー氏は、「借金は嫌だ」という意思表明をし続けていた。NLD政権は、円借款以外の方法での援助を繰り返し要請していた。それに対して、国策として決定していることなので変更できない、とかたくなな態度をとり続けたのは、日本の側であった。

渡辺周氏は前出のTansaの記事の中で、アウンサンスーチー氏は2012年の債務取り消しの際にも「5000億円の帳消しはやめてください。現政権を応援することになります」と迫った、と伝える。それに対して、当時の民主党政権で官房長官を務めていた仙谷由人氏(2012年の日本ミャンマー協会の発足時から副会長・理事長代行として運営に深く関与)は、「喜んで受ければいい話ではないでしょうか」と強く反論したという。

無責任を通り越して日本の国益に反する

このように民主化支援を名目にしながら、民主化の旗頭であったアウンサンスーチー氏の反対を押し切り、国軍との協議のうえで、巨額の債務の取り消しと引き続きの巨額の円借款を進めてきたのが、日本である。今、明白な民主化の破綻を目の前にして、「状況が変わったのはミャンマー側のせいだ。国軍が改心しないなら、市民が抵抗をやめればいいじゃないか」と言わんばかりの態度をとっているという印象を国際的に広めるのは、無責任を通り越して、日本の国益に反する。

とはいえ、今債務の帳消しをするわけにはいかない。人をだますことなど何とも思っていない国軍幹部にだまされ続けた後で、国軍の利益になる形で、ただ日本の納税者に全ての泥をかぶせて、また債務帳消しにするしかなくなったら、最悪である。

リスクを承知で民主化の後押しをする貸し付けをしたということ自体を責めるべきではないかもしれない。だがその言い訳は、今はもう通用しないのだ。

過去はともかく、今後もなお、クーデターを起こして市民を虐殺している国軍の誠実を信じて資金を貸し付け続けるのは、不適切すぎる。円借款であっても、リスクに迅速に対応する措置をとる政治判断の是非について真剣に検討すべきだ。