昼間はITベンチャー役員、朝晩は北海道で副業

「デジタル化がもっと進んでいたら新型コロナウイルスの感染が拡大したときも、すぐに満員電車は解消できただろうし、生活が苦しくなってしまった人をもっとピンポイントで救えたのではないでしょうか。自身の培ってきたデジタルの知識で、社会に貢献したいという想いが強くなりました」

女性
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都内のITベンチャー企業で役員を務める川田さん(仮名、30代)はこう話す。

彼女は新卒から10年以上同じ会社で勤めた。営業からカスタマーサポートまで様々な部署を経験したのち、新規事業を立ち上げ、分社化したのが今の会社だ。会社の外での業務経験がなく、「自分が他の会社や社会で通用するのかを試してみたい」という気持ちを抱えていたが、忙しくて挑戦するタイミングをつかめずにいた。

そんな想いを抱える中でコロナ禍となった。在宅勤務を余儀なくされて日本中が大騒ぎをしているさなか、自分の会社ではデジタル化を進めていたことでそれほど問題が起きなかった。想像以上に世間ではデジタル化が進んでいないということを再認識し、自分の持っている知識やスキルも誰かの役に立つのではないかと川田さんは考え始めた。そこでJOINSに登録し、2021年1月から北海道の卸売り企業で副業を始めることにした。

副業の内容は、販売促進ツールの制作と新規事業立ち上げの推進だ。

その卸売り会社での販売促進ツールの制作の現場は、非常にアナログだった。営業パンフレットやカタログなどに載せる情報は、複数の支社に在籍する営業部の担当者がメールを通じてファイルを収集し、制作担当者が一つひとつ開け、最終的には一つのファイルに集約する。さらに、それを基に作成した原稿もまたメールで送り合って確認するという作業が発生していた。

「その作業が大変すぎて内容を良くすることまで手が回っていない」と川田さんはすぐに気づいた。さっそく、同時編集が可能で、リアルタイムで保存されるクラウドツールの導入を進めて効率化した。新規事業の推進は、まだ始めて1カ月だが、副業先の企業が本業と同じ商材を扱っていることもあり、自身の経験を基にした企画提案ができているそうだ。

副業の報酬は10万円、細切れの時間を上手に活用

平日は副業の打ち合わせを週1~2回オンラインでこなし、打ち合わせ以外の作業は休日も含め週に5~6時間取り組んでいる。現在は、副業稼働時間は週8時間~10時間で月間上限40時間となっている。

川田さんは、夫と小学校低学年の長女と3人暮らし。本業の仕事や育児、家事をこなしながら副業の時間をどう確保しているのか紹介したい。

川田さんの娘には発達障がいがあり、感情のコントロールが難しいときがある。放課後、学童保育に行けずに、直接家に帰ってくる日も。定期的に医療機関も受診する。「副業を始めるときに、娘との時間は削らないと決めていました」。川田さんはこう話す。

本業の仕事をテレワークで終えるのは17時ごろ。18時すぎには同じく在宅勤務中の夫と、娘と食卓を囲み、家族との時間を優先する。子どもの話をじっくり聞くのもこの時間。副業の仕事に取りかかるのは21時、娘が眠りについてからだ。週末は娘の習い事に付き添い、カフェで待つ間に副業の仕事を進める。日々、細切れの時間を見付け出して、業務を進めているという。

時間術と同じぐらい川田さんが工夫しているのが、仕事の効率化だ。本業と違い、副業に取り組む時間は細切れのため、どこまで作業したのか、どの案件まで対応済みかわからなくなってしまうこともある。

そこで、作業用ドライブを作り、完了した業務は都度「対応済みフォルダ」に入れ、一目で進ちょくがわかるようにした。また、メールのやり取りだと添付ファイルを見逃してしまう恐れもあるため、副業先とGoogle Workspaceで素材を共有し、漏れがないよう対策を打った。

気になるのが夫との家事・育児分担だ。「娘が生まれた当時は、夫はゴミ出しぐらいしかしませんでした。でも、根気強く教えて、今は料理から掃除までひと通りこなします」(川田さん)。食事も半調理済みのミールキットや、デリバリーを取り入れ、互いにストレスがたまらないようにしている。

副業で得る報酬は月額10万円ほど。ただ、金額は今後調整する予定だという。

「報酬を先に決めてしまうと、副業先も『元を取らないといけない』と構えてしまうかなと思い、この金額にしました。私自身も副業は初めてなので、まずは本業に支障のない程度に取り組みたいと考えています」