緊縮財政が景気を悪化させた

【藤井】そして、理論的な視点から説明するとすれば、彼らはいろいろなところで間違っていますが、最大の間違いは、「破綻する。破綻する」と叫んで財政を緊縮させ、景気をますます悪化させ、その結果、税収が減って財政を悪化させてしまっているところです。つまり、原さんたちが心配で心配でしかたがないといっている財政悪化という状況を作っているのは、他ならぬ彼ら自身なのです。

京都大学大学院の藤井聡教授
京都大学大学院の藤井聡教授(写真提供=アスコム)

彼らが騒がなければ国債をもっと出して政府支出を増やしたり消費税を減税・凍結したりでき、それを通して経済がよくなって、財政問題が自ずと解消するのですが、彼らが騒ぎ立てることで、そういう改善プロセスを邪魔してるんです。これが彼らの最大の間違いです。

【田原】2021年1月末の朝日新聞に、原編集委員は「金融緩和、出口見失った日銀 重なるベトナム戦争の泥沼」という記事を書いていた。黒田総裁は異次元緩和を2年間の短期決戦と説明したのに、8年近くたっても出口戦略がない。こうも泥沼化させたのは日本政府のひどい財政状況で、世界最悪水準の借金依存がさらに悪化。日銀がお札を刷り国債を買い支える「打ち出の小づち」が、どこまで持続可能か誰にもわからないと。

政府の借金が雪だるま式に増え続けてよいはずがない、といいたいわけね。これは世の中の“常識”といえば常識でしょう。

「コロナ禍は有事である」という発想がない

【藤井】おっしゃるとおり。しかし、重要なのはその常識こそが間違いだという点。そもそも原さんは、ある意味で的確な意見を開陳している。それは“ミスター財務省”の主張です。

政府の借金は理屈抜きに悪い。でも、1000兆円超もの借金を一気に返すのは無理。だから、とにかくプライマリーバランス黒字化で単年度の借金をなくし、増税もして、借金を減らす方向に持っていかなければならない。こういうのがいま世間の常識になっていますが、これこそ完全に間違った考え方。その“常識”が間違っているんです。「コロナ禍は有事である」という発想がない!

【田原】日本の“常識”をもう一つ。2020年4月に安倍晋三首相が新型コロナで緊急事態宣言をした。僕は一対一で会って「緊急事態宣言は、なんで欧米に2カ月以上も遅れたんですか?」と聞いた。

マスコミがずっといってきたのは、日本の財政状況は先進国でも最悪で、このままいけば10年くらいで政府が財政破綻しかねない。ここで緊急事態宣言をすれば、100兆円200兆円というカネが必要になる。ほとんどの閣僚、与党公明党、野党は、「そんなことをすれば財政破綻を早めるだけだ」と反対した。

【藤井】安倍さんはちょっと違う考え方だったと思いますけれども、結果的にはそうで反対が通った。