日本の女性が改姓する最も大きな理由
結婚したら、女性が男性の姓になるのが当然だと考えている人は多い。実際、結婚したカップルの約96%は妻が夫の姓に変更している。テレビの連続ドラマでも、ヒロインが結婚したら、何の説明もなく、次の週から夫の姓を名乗っている。
しかし、民法750条には、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」とあるだけで、法律上は、妻か夫のどちらかが改姓すればよいことになっている。ではなぜ、女性が婚姻改姓するのだろうか。
最大の理由は、「みんながそうしているから」だろう。多くの人は、習慣として女性が改姓しているし、姓が変わることに対する躊躇もない。むしろ、婚姻改姓には「正式な結婚」という意味があり、正式な妻として認められた喜びにも通じる。
結婚を知られる、仕事の連続性が失われる…
しかし、結婚する時には「みんながやっているから」と婚姻改姓した女性は、いくつかの問題に直面することになる。主なものだけ挙げて見よう。
ひとつは、姓を変更することに伴う膨大な事務手続きだ。携帯電話、パスポート、免許証、クレジットカード、銀行やネット、車の名義など、すべてを変えなければならなくなる。
また、お互いを姓で呼び合うことが多い日本では、女性だけが結婚のようなプライベートな情報を、仕事で関わる人や親しくない人に知られてしまう。よく指摘されるのが、同窓会名簿だ。女性の名前の後にだけ「旧姓」の欄があり、一目でだれが結婚したか分かるようになっている。
おめでたいことだから良いじゃないかと考える人もいるかもしれないが、結婚のようなプライベートな情報を、親しくない人にも知られることに抵抗を感じる人もいる。万が一離婚して旧姓に戻ることを選択したら、また、周りの人に離婚を知られることになる。
さらに、結婚前と後の仕事が、同一人物が達成したものであることも分からなくなる。現代社会では多くの女性がさまざまな分野で成果を上げているが、その制作者名、登録者名、著者名などは、「姓+名」で記録される。そのため、たとえば婚姻改姓して姓が「中村」から「鈴木」に変わると、改姓前の業績は「中村」の業績、改姓後は「鈴木」の業績と、まるで別の人の業績のように表示される。その結果、改姓前と後の仕事の連続性が失われてしまう。
このような連続性の喪失は、女性自身にとっても、「自分でなくなるように感じる」という喪失感につながる。前の姓で業績を積み上げてきた自分が、いなくなったように感じる人もいるかもしれない。名前をその人そのものととらえる名実一体観によれば、このような感慨も理解できる。