躍動感や疾走感を強調したデザイン

ではデザインについてはどうか。このクラスではヤリス以上に評価が高い車種があることも事実である。

たとえばホンダのEV「ホンダe」の、モダンでありながら優しさを感じる造形や色彩は、世界3大デザイン賞のひとつと言われるドイツの「レッド・ドット・デザイン賞」で、2020年にプロダクトデザイン(自動車)部門のベスト・オブ・ザ・ベスト、スマートプロダクト部門のレッド・ドット賞を獲得した。

欧州でヤリスとベストセラーの座を争うプジョー208も、EV仕様を用意するなど環境対応は抜かりなく、このブランドらしい運転の楽しさや乗り心地の優しさを備えていることに加えて、プジョーのコンパクトカーの伝統を受け継ぎ、なおかつ親しみの持てるデザインが評価されている。

こうした中でヤリスのデザインを見ると、走りの良さを造形でもアピールした、躍動感や疾走感を強調したものに映る。少なくともホンダeやプジョー208とは、明らかに違う方向を向いている。

それをもっとも明確に示しているのはハッチバックで、前後のフェンダーを張り出したのに対し、キャビンはコンパクトに絞り込んでいる。引き締まった肉食系動物を思わせる。広さよりも元気さを重視した造形だ。

ちなみにハッチバックのボディは、日本向けと欧州向けでは異なる。日本向けは全幅を5ナンバー枠内に収めるべく、前後フェンダーの造形を工夫しているのだ。こうした手法はスズキ「スイフト」も取り入れているが、それでもフェンダーが張り出しているように見える。デザイナーは苦心したはずだ。

「SUVらしい顔つき」のヤリスクロス

ヤリスクロスではSUVらしいブラックのフェンダーアーチを加えたためもあって、フェンダーの張り出しはハッチバックほどではない。むしろ目立つのは、水平に近いエンジンフードと高めに置いたヘッドランプだ。これだけでぐっとSUVらしい顔つきになっている。上下に伸びたグリルの間延び感を抑えるべく、間にボディカラーのバーを入れたところを含めて巧妙な処理だ。

ボディサイドでは、ハッチバックより大径のタイヤと前述のフェンダーアーチで力強い足回り、サイドシルのプロテクターで余裕のある最低地上高をアピールする手法は他のSUVにも見られるものの、フェンダーアーチとプロテクターはリアに行くほどせり上がっていて、ここでも躍動感を表現している。そして幅広くなった後半に埋め込んだシルバーの車名入りプレートは、質感を高めている。

ヤリスクロス
写真提供=トヨタ自動車
「ヤリスクロス」HYBRID Z(2WD)(ブラックマイカ×ホワイトパールクリスタルシャイン)

GRヤリスも、単にドアを2枚にしてフェンダーをワイドにしただけではない。重心を下げるためにカーボン製としたルーフは、ハッチバックより45mm低いうえに、弧を描いている。ヤリスクーペと呼んだほうがふさわしいフォルムなのである。