クラスターになれば「クビ」

留学生たちは寮を出た後も、節約のため複数でアパートをシェアする。ダン君も同胞の留学生と一緒に狭いアパートで暮らしている。ルームメイトのバイト先は、化粧品工場と同時期にクラスターが発生した食品工場だ。ダン君が働くお菓子工場でも、やはり留学生バイト5人ほどの感染が判明している。

「僕のバイト先はクラスターとは認定されなかったので、仕事を続けています。でも、バイト先がクラスターになると大変です。工場が止まってしまい、留学生たちはバイトができなくなってしまいます」

クラスターの工場は一時的に操業を停止するが、しばらくすれば再開する。だが、Aさんの教え子たちはバイトに復帰できていない。

「PCR検査で陰性だった子までも、留学生は全員が“バイト切り”されてしまったのです。『留学生は危ない』と思われているのか、クラスターが起きていない職場であっても、バイトを失う留学生が増えている。留学生たちからは『学費が払えない』との相談が相次いでいます」

「使い捨て」の労働者発、日本全体へ

留学生のアルバイトといえば、コンビニや飲食チェーンの店頭で働く外国人を思い浮かべがちだ。しかし、店頭で働けるのは、一定レベルの日本語能力を身につけた“エリート”に限られる。それよりずっと多くの留学生は、工場などで夜勤の肉体労働に就いている。

出井康博『ルポ 日本絶望工場』(講談社+α新書)
出井康博『ルポ 日本絶望工場』(講談社+α新書)

そんな「最後の砦」とも呼べるバイトを失えば、彼らの生活はたちまち行き詰まり、学費の支払いもできなくなる。事実、Aさんの学校では、コロナ禍になって以降、学費の支払いから逃れて不法就労しようと、学校から姿を消す留学生が続出している。

外国人であれ日本人であれ、新型コロナ感染は罪ではない。仕事や住環境で“密”を強いられる点で、むしろベトナム人留学生たちは犠牲者といえる。しかも「労働者」や「留学生」として都合よく利用された末、使い捨てられようとしている。

コロナ禍が長引けば、制度の犠牲者となるベトナム人もさらに増えていくことだろう。そして、その政治・行政の不作為の罪が、結果として日本人にもね返っていくことになるのだ。

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