相続でもめないためにどう備えればいいのか。老後問題解決コンサルタントの横手彰太さんは「『銀行で遺言の手続きをしたから認知症になっても大丈夫』と勘違いしている人に、よく出会う。遺言だけでは、財産凍結は防げない。生前の認知症対策のため、家族信託を活用してほしい」という――。

※本稿は、横手彰太『老後の年表 人生後半50年でいつ、何が起きるの…? で、私はどうすればいいの??』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

二重にマスクを着用したシニア女性
写真=iStock.com/SetsukoN
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認知症になると相続は面倒なことになる

相続がこじれるのはよくあることですが、父親が亡くなった時に、父親が作成した遺言書がない上に、母親が認知症になっているケースが本当に厄介です。以下の話は、父親と母親が入れ替わった場合でも、十分に起こり得ます。

要は配偶者に先立たれて遺された者が、認知症になると面倒だということです。

遺言書がなければ、相続する(財産を受け取る側の)相続人で遺産分割協議をすればいいと、民法で決まっています。しかし母親が認知症で判断能力がない場合、母親は遺産分割協議に参加できません。とはいえ、母親の参加なくして、子どもたちで勝手に進めることはできないのです。

そこで、協議を成立させるために、法定後見制度が利用されることが多くなっています。判断能力がある子どもが家庭裁判所に申し立てをして、裁判所が母親の後見人を選任するのが法定後見制度です。後見人とは、財産管理や身上監護などを行う人を指します。

家庭裁判所はほとんどが、後見人として専門職後見人を選びます。専門職後見人とは、弁護士や司法書士など専門職を持つ後見人です。専門職後見人は母親の財産を守るために、母親の相続分が記載された遺産分割協議書に、署名・捺印することになります。

よく使われる法定後見制度だが、突っ込みどころが満載

協議が成立したらお役御免で、専門職後見人が解任されればいいのですが、そうもいかないのが現実。母親の財産管理と身上監護を続けます。

母親の財産が一定以上ある場合は、月々数万円を専門職後見人の報酬として、母親の財産から払うことになります。あくまで申請制ですが、職業後見人はボランティアではないので請求してきます。