感染症専門医が若手医師に不人気な5つの理由
1)公務員系の勤務先が主流で、あまり儲からない
不人気理由の筆頭は「あまり儲からない」が挙げられるだろう。勤務先は、公立病院、大学病院、研究所、保健所、検疫所、厚労省や都道府県衛生部などの、公務員系の職場が主流となる。安定はしているものの、(医師として)高収入とは言いがたい。全ての医師が収入優先で勤務先を選ぶわけではないものの、低いより高いほうを選択する者が多い。
感染症専門医は研究留学できるチャンスは比較的多いが、留学中はさらに収入レベルが下がる。「感染症」を売りにクリニック開業することも難しい。文筆活動に励んでベストセラーを出せば、経済的に報われるが、その可能性は決して高いとは言えない。
2)マニアックでオタクな人材が集まる地味な職場
2009年に蔓延した「新型インフルエンザ」が収束した後の約10年間、感染症学は医療界の中で地味な分野だった。「ノロウイルス」「デング熱」などで、たまに世間の注目を集めることはあっても、「外科」「循環器科」のようなドクターとしてイメージしやすい診療科にはなれない。よって、筆者の知る限り、「落ちこぼれ」という表現は置いておくにしても、こだわりの強い「マニアック」「オタク」系人材が集まりやすいのが感染症学ということになる。また、ブログやSNSや著作活動に注力するようなタイプが目立つ。
3)どこから弾がとんでくるかわからない
「感染症」と一口に言っても病原体は、直径1μm以下のウイルスから、大腸菌O157、数メートルの広節裂頭条虫まで含まれる。日本の国際化に伴い、従来は「日本には存在しない」とされてきたデング熱や、狂犬病のような感染症についての診断・治療を要求されることもある。「どこから弾がとんでくるかわからない」のが感染症専門医の難しさ(および面白さ)である。
4)病院内のみならず、政治家や行政職との交渉や連携が必要
ガンや骨折などの一般的な病気は、病院内だけで治療がほとんど完結するが、感染症は他分野との連携が必要となることが多い。感染症対策でリーダーシップを執るならば、保健所、食品工場、市役所職員、政治家などの多様な職種を相手に交渉する必要があり、「病院内で威張っていたらOK」とはいかないのだ。書類や会議もスピーディにさばかねばならない。
5)学際的な新興分野、ベンチャー起業的な存在
日本感染症学会そのものは大正時代に設立されたが、急速な発展を遂げたのは1990年代に急増したHIV/AIDS対策だろう。それまでは、内科医(の一部)が対応していたのを、都立病院などに設立された「感染病センター」部門が引き受けた。「肺炎は呼吸器内科」「足の壊疽は整形外科」「爪白癬は皮膚科」と、それぞれの科でバラバラに対応していたのを、「感染症」というくくりで一括対応する専門家が増えていったのだ。学際的な新興分野なので、ベンチャー起業的な苦労(と面白さ)があるのだ。