給与を電子マネーなどで支払う「デジタル給与払い」の実用化に向けて、政府が法整備を進めつつある。実用化された際、どんな影響があるのか。東洋大学国際学部の野崎浩成教授は「地銀にマイナスの影響があると言われているが、そもそもデジタル給与払いが普及するとは考えづらい」という――。
銀行本社ビル
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アメリカなどで活用されている「ペイロールカード」とは

給与の支払いは、労働基準法24条が定める「賃金支払いの五原則」により、①通貨(現金)で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定期日を定めて、支払うこととされています。給与を「①通貨(現金)」ではなく、「資金移動業者」が提供する電子マネーなどで支払う「デジタル給与払い」にするためには、法改正が必要です。

本件については、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で今年に入って既に3回にわたって議論されてきました。この分科会の資料によれば、雇用主が抱える資金移動業者のアカウント(例えば電子マネーの法人名義口座)から従業員のアカウントへ賃金相当額が移動するパターンや、アメリカなどで活用されている「ペイロールカード」の導入などが示されています。

ペイロールカードとは、会社が賃金を支払う目的で従業員に与えるプリペイドカードで、ビザカードやマスターカードなどの国際ブランドが付いていることで、汎用はんよう性が確保されたものです。資金移動業者のアカウントとペイロールカードを連動させれば、最初の例と同様の効果が得られるわけです。

給与デジタル払いで銀行が受ける影響

「デジタル給与払い」については、政府が導入に向けた法整備を進めつつあることから、さまざまなメディアが大きく報じられました。それは「給与受け取り口座」という銀行の強みが失われる恐れがあるからでしょう。特に影響を受けるといわれているのが地銀です。

まず、事実関係を整理しましょう。現在、国内銀行に預けられている個人預金は預金全体の60%を占めています(日本銀行統計)。一方で、国内貸し出しのうち住宅ローン等の個人向けは28%となっています(同統計)。預金の源泉となる給与については、今年2月末現在の雇用者数は5,983万人(自営業者等を含めた就業者数は6,646万人)が対象となります。多くは民間事業者から給与を受け取っていますが、今後公務員の給与もデジタル払いが実施されるとすれば、日本の人口の半分の給与の受け取り方を選択する余地が生ずる可能性があるということです。