さらなる高騰を招いた「インバランス」……家計も大打撃

インバランスとは、買い漏れがあったときに、その過不足分を一般送配電事業者が補給する仕組みである。このインバランス措置によって、顧客への電力供給はストップされず、停電などに陥らずに済む。

ただし新電力は、調達のミスに対して責任を負わなければならない。不足した電力分の費用は清算金として、後日インバランス料金を一般送配電事業者に支払う必要がある。

このインバランス料金は市場価格連動型の算定方法が採用されているが、今回、この料金が高騰した。インバランス料金の推移を見ると、2020年12月1日時点ではインバランス料金の最高価格は7.91円/kWhだったが、1月11日には500円を超え、511.3円/kWhを記録した。先ほどのJEPXの取引価格とは比較にならない高値である。

となれば、電力小売りには「インバランスは何としてもでも回避」という思惑が働く。こうした考えから、新電力たちはJEPX市場に買いに走り、その結果、市場価格が高騰する悪循環が生じていた。一方で、JEPXには買い札が多く入っても、売り札が入らずに、強制的にインバランス送りになったケースも多かったと言われている。

また、その後、経産省が1kWhあたりのインバランス料金の上限を200円と設定したことからも分かるように、そもそも制度設計に問題があったという点は新電力にとっては不幸であった。

1kWhあたり二十数円で売る電気について調達を失敗するとその20倍もの赤字を払わないといけないというのが、この冬に起きていたことである。まさに文字通り「新電力冬の時代」であった。

一部の消費者にも悪影響が及んだ。一般的な従量型に比べて「お買い得」とされてきた市場連動型の料金プランを選んだ家庭の中には、通常の10倍もの電気代を支払わざるを得なくなった事例もあったとの報道もある。

あだとなった「薄利多売」の新電力

かつて新電力で1位にもなったF-Powerは、なぜ経営破綻したのか。

1位を記録した2018年4月当時、F-Powerは「安売り王」と揶揄されていた。文字通り薄利多売を地で行きながら売り上げを伸ばしていくスタイルだった。だがこのスタイルは長続きしない。2018年6月期決算で120億円の赤字、2019年6月期決算で180億円の赤字を計上。創業以来初めて債務超過にも陥った。

日経電子版によると、同社の埼玉浩史社長は社員向けの説明会で、JEPXでの電力価格の季節的な上昇やF-Powerが独自に組み込んでいた原油価格のフォワードカーブに基づく分析の読み違えによるプライシングのミスなどであったと説明したという。今回の経営破綻まで一直線に2018年以降、下降線を突き進んだことに鑑みれば、やはり薄利多売の設計に問題があったと分析せざるを得ない。