「東電の会長職」という火中の栗を拾う人物はいない

東電HD内では「柏崎原発不正入室問題で信用がガタ落ちした社内のガバナンスを固めるうえでも、関西電力と同じように外部からそれなりの人材を呼んで会長として社内ににらみを利かせる体制にしないと会社が持たない」(東電幹部)との思いがある。

しかし、テロ対策の不備など核物質防護に関する問題で社長が国会に呼ばれ、地元・新潟県からは「原子炉の運転を的確に遂行できる能力があるか、疑問符がつくような状況だ」(花角英世知事)と不信の声があがっている。

新型コロナウイルスの感染拡大で疲弊する地方経済の立て直しのためにも新潟県は原発再稼働に期待を寄せていたが、「再稼働に向けて地元住民たちを納得させる自信がなくなってきている」(地元自治体関係者)と肩を落とす。経済産業省は空席の会長を埋めるべく各社の首脳に頭を下げてきたが、省内は「東電の会長職という、まさに火中の栗を拾う人物は当分、現れないだろう」(経済産業省関係者)と怒りを通り越して、あきれ返っている。

あまりに重すぎる16兆円という負債

相次ぐ不祥事で、東電HDは3月末までに策定するはずの2021年度から3カ年の中期経営計画「第四次総合特別事業計画」(第四次総特)は公表できないまま新年度に突入した。通期決算の見通しもまだ出せていない。柏崎刈羽原発の7号機の再稼働は順調にいけば6月に予定されていた。しかし、一連の不祥事で、加藤勝信官房長官にも記者会見で「核物質防護の確保は原子力事業者の基本だ。当面、実質的な再稼働はできないものと認識している」と突き放されている。

柏崎刈羽原発1基が稼働すれば年間1000億円の収益の改善効果があるとされ、次期「総特」も原発再稼働を収益計画の前提に組み入れるはずだった。しかし、その思惑は吹き飛んだ。

東電は廃炉や除染のための費用や、賠償金支払いのために16兆円の負債を背負っている。毎年これらの費用を賄うために、年間5000億円の利益を確保したうえで、中長期的にはさらに年4500億円の連結純利益を稼いで、負債を返していく計画を立てている。同原発の再稼働はその大きな収益の柱になる予定だった。

東電が抱える16兆円の負債のうち、4兆円の除染費用は政府が持つ東電株の売却で賄うことが決まっているが、その前提となる株価は1500円。今は、350円前後と大幅に下回っている。相次ぐ不祥事が続き、原発の再稼働が遠のく中で株価を目標の1500円に引き上げるのは容易ではない。

さらに、電力自由化が東電の体力を奪いつつある。その最大の勢力が同じインフラ事業を手掛けるNTTだ。