「ただ乗り」排除へ強まる国際的圧力

ニュース記事の使用料支払いを拒否してきたグーグルやフェイスブックが「無料」から「対価支払い」へ方針転換したのは、報道機関が多大な労力と多額の費用をかけて生み出した記事を無料で使う「ただ乗り」に対する圧力が国を超えて広がってきたからだ。

電通グループの予測によれば、世界の広告市場は、ネット広告の急拡大に伴い21年には5790億ドル(約63兆円、11年の4割増)に伸長する見通し。その半分はグーグルとフェイスブックが支配するネット広告で、かつて2割を占めていた新聞のシェアはわずか5%程度にまで下がる。

米国の新聞社は、収入の過半を広告に頼っているが、ただでさえ落ち込みが続いているところへコロナ禍が拍車をかけ、広告収入は3年で3割も減少してしまった。当然のことながら、新聞社の経営は急速に悪化し、すでに地方紙の4分の1に当たる2000紙超の新聞が消えたという。

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事態の深刻さを憂う欧米各国の政府は「ジャーナリズムの危機」を訴え、相次いで法整備や規制強化に乗り出した。

先鞭せんべんをつけたのは、欧州連合(EU)。19年春、ネットにニュース記事を掲載した場合、著作権をもつ報道機関に「適切な使用料」を支払うことを盛り込んだ「改正著作権法」を成立させ、巨大IT企業と報道機関が交渉する法的枠組みを整えた。これを受けて、フランスやドイツはじめ加盟各国は、さっそく国内法の整備に着手した。

オーストラリアは2月末、グーグルとフェイスブックを念頭に、世界で初めてニュース記事の使用料支払いを義務づける法律を成立させた。従わない場合は1000万豪ドル(約8億4000万円)以上の罰金を科すという厳しい内容だ。

巨大IT企業のおひざ元の米国でも3月中旬、超党派の議員が、巨大IT企業に対し交渉力の劣る報道機関が団体交渉できるようにする「ジャーナリズムの競争と保護法案(記事使用料法案)」を上下両院に提出した。中小メディアが束になって、グーグルやフェイスブックと交渉する舞台を整えようというわけだ。

価格決定の主導権確保を狙うグーグル

グーグルが方針を転換して「ニュース・ショーケース」を始めた裏には、さまざまな思惑が交錯する。

まず、報道機関とのニュース記事の価格交渉にあたって、政府が介入できる法令で一律に縛られることを嫌ったことが挙げられる。報道各社との個別交渉であれば、彼我の力関係から支払額決定の主導権を握ることができるとの自信が透けて見える。

また、オーストラリアの記事使用料強制法の成立にあたって、事前に報道機関と記事使用料の支払いで合意しておけば、法に基づく仲裁措置による支払額の強制を回避できることも大きかった。