「対象者基準」を設ける場合は具体的にする必要がある

ただし、今回は努力義務なので66歳の従業員全員を対象にする必要はなく、対象者を限定する基準を設けることができる。だが厚労省の指針では、対象者基準を設ける際には「事業主が恣意的に高年齢者を排除しようとするなど法の趣旨や、他の労働関係法令に反する又は公序良俗に反するものは認められない」としている。

たとえば「会社が必要と認めた者に限る」とか「上司の推薦がある者」とすること、あるいは一定の基準を設けた上で「その他必要と認める者」を入れるのは、基準がないことと同じであり、今回の改正の趣旨に反するおそれがある。基準の例としては「過去○年間の人事考課が○以上」とか「過去○年間の出勤率が○%以上」といったふうに具体的かつ客観的であることを求めている。

退職金のプランと電卓とメガネ
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70歳まで働くことを法的に保障されることは社員にとっては朗報だろう。野村総合研究所の調査(2020年7月21日)によると、55~64歳の正社員のうち「70歳まで(以降も)働く」と答えた人は27.2%、「多分、70歳まで働く」が23.2%。合わせて約半数が制度の活用を考えている。

70歳までの雇用延長で生じる5つのリスク

一方、会社にとってはそんなに簡単な話ではない。60歳定年企業にとっては現在の65歳までの再雇用年齢がさらに5年延びることになる。これまでは給与を下げる代わりに現役世代のじゃまにならない程度の簡便な仕事を与えて65歳まで福祉的に雇ってきた企業も少なくない。それが10年間に延長されることになれば、さまざまなリスクが発生する。具体的なリスクとは以下の5つだ。

① 数年後にバブル入社世代が定年に達し、高齢社員が急増する。
② 65歳から70歳に雇用延長されることで人件費が増大する。
③ 60歳までの正社員と給与が低い60歳以降の有期契約社員の二極化が顕在化する。
④ ITスキルの習得などビジネスモデルの変容に応じた再教育が必要になる。
⑤ 雇用延長で増加する人員に伴う新卒・中途社員採用戦略の見直しを迫られる。