元プロ野球選手のイチローさんは、マリナーズ時代、毎朝必ずカレーを食べていたという。脳科学者の茂木健一郎氏は「これは無意識のセットアップだろう。いつも同じ行動を取ることは、力を発揮するのに一番良い脳の状態をつくることになる」という――。

※本稿は、茂木健一郎『緊張を味方につける脳科学』(河出新書)の一部を再編集したものです。

テーブルの上のカレーライス
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ベストパフォーマンスを出しやすい「フロー」状態

ベストパフォーマンスが出しやすい状態の一つに「フロー」があります。フローとは、時間を忘れるくらいに課題に没頭した状態のことです。

フローに入るためには無意識の状態を最初にセットアップすることが必要です。そして一度フローに入ってしまえば、脳に自動運転させると、作業はとてもはかどることになります。

2019年日本で開催されたラグビーワールドカップの準決勝で、世界ランキング1位のニュージーランドのオールブラックスと、世界ランキング2位のイングランドが対戦しました。

オールブラックスは、通常とは表情を一変させ相手を圧倒するダンス「ハカ」を、グラウンドでチーム一体となって踊ってから、戦いに挑むことで知られています。

しかし、実力からして世界一、あと一勝で決勝、相手は最大のライバルであるイングランド、というここ一番の試合で、オールブラックスは敗退してしまいました。

無意識は「ルーティーン」でセットアップする

ラグビーはニュージーランドの国技と言っていいスポーツです。

国民にとって、オールブラックスの負けは世界の終わり。しかしどれだけ人気があって、どれだけ実力があっても、またチームの士気を高めるハカがあっても、このときは、選手たちの動きはどこかぎくしゃくしていて、無意識のところが完全に整っていないように見えました。

対してイングランドは、この日最初から最後まで集中して、相手に絶え間なく圧力をかけ続ける容赦のないプレーと賞賛されました。

オールブラックスは、イングランドに比べて、無意識のセットアップが足りていなかったのではないでしょうか。原因と結果の関係は本当に複雑で、無意識のセットアップが上手くいくかいかないか、これは本当に微妙な要因が作用するようです。

では私たちはどういうふうにセットアップしたらいいのでしょうか。

無意識を整えるのに良い方法をいくつか考えてみましょう。

無意識のセットアップ方法として、一番よく知られている方法は、ルーティーンです。

オールブラックスも、試合前に必ずハカを踊ります。ハカを踊れば勝てるというわけではありませんが、あれは心をいつも同じ高まった状態に持っていくのに、脳科学的な見地からもとても有効です。