段取りどおりに体を動かして心の状態を整える

元プロ野球選手のイチローさんのルーティーンもよく知られています。

マリナーズ時代には、毎朝必ずカレーを食べていたと聞いています。

バッターボックスでのバットもいつも同じように構え、試合後には、どれだけチームのメンバーが盛り上がっていようと、必ず自分でグローブを磨く。イチローさんは試合よりも、試合に至るまでの準備を大事にしていたと言われています。

確かに試合は、相手との相性もあるし、何が起きるかわからないから、自分にできるのは準備だけなのです。イチローさんは、体の動きをいつも同じにすることによって、またいつも同じ行動を取ることによって、力を発揮するのに一番良い無意識のセットアップをしていたのです。

フランス映画『美しきいさか』(1992年日本公開)では、ある画家が、絵を描きはじめる前に延々と絵の具を準備する場面が描かれています。長い準備を整えて、その画家は一つの絵に没頭していくのです。

スポーツでも創作でも、自分なりの段取りを決め、その通りに体を動かしていくことで、いつも同じ、一番良い心の状態に持っていきやすくなるところがあります。

ボルト選手が走る前に十字を切ることも、試合前にリラックスする自分の好きな音楽を聴いている選手が多いのも同じで、ジンクスを大事にすることは、無意識のセットアップの一つの方法論なのです。

夕日を眺めながらヘッドフォンをつけ音楽を聴く女性
写真=iStock.com/FTiare
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どんなにツイッターが炎上しても「10キロ走る」

私自身が一日のうちで大事にしているルーティーンは、10キロ走ることです。

どんなに仕事で行き詰まっても、どんなにツイッターが炎上しても、10キロ走ることで、気持ちが全く変わってきます。

作家の方では、午前中に仕事をして、午後はもうやらない、という人が多いようです。

例えば、本を書くことはとても時間がかかる仕事です。

長い期間仕事を続けなくてはならないので、フルマラソンを完走するのにペース配分を考えるのと同じで、仕事の時間配分をする。だから作家でも、芸術家でも、学者でも、仕事のルーティーンがはっきり決まってくる場合が多いのです。

哲学者イマニュエル・カントは、毎日規則正しい暮らしをしていて、決まった時間に散歩をしていたそうです。

あまりにもその時間や経路が正確だったために、彼の暮らしたドイツ・ケーニヒスベルクの街の人は、「カント先生が通ったから、お茶の時間ね」などと、彼を時計代わりにしていたといいます。

難しいことを乗り越えるときに、ルーティーンがあると、心を楽にしてくれます。それを着々とやっていけば、緊張の重苦しい時間が着々と過ぎていくのです。