「準備と緻密な戦略」が奇跡を必然に変えた

ではそんな思い込みから、選手たちはどうやって脱け出したのでしょうか。

そこには、当時、「名将」と呼ばれたエディー・ジョーンズの並々ならぬ情熱と戦略があったのです。

エディーは、日本代表チームを率いるにあたり「日本人でも世界で勝てることを証明しよう」という大義を持ち、チームづくりに着手していきました。

そこで実施したのが、これまで類を見ない通算173日にも及ぶ長期合宿です。

この合宿でエディーは日本選手の弱点ともいえるスタミナの強化のため、早朝から夜まで一日に4回、多いときには5回のハードワークを選手たちに課していきます。あまりのトレーニングの過酷さから、選手たちからは「地獄の合宿」と恐れられました。

ところが、次第に選手たちの顔つきも変わっていったといいます。これまでイメージできなかった「南アフリカに勝つ」ということが現実味を帯びてきたのです。

さらに、日本人選手は世界の強豪国選手と比べて体が小さいため、相手に対して低いタックルが有効だと考えたエディーは、レスリングの練習を取り入れました。

実際に、ワールドカップ本番では南アフリカの選手たちは日本の選手たちの低いタックルに苦しめられていました。

このように、「俺たちが南アフリカに勝てるわけがない」というネガティブな思い込みに対して、用意周到な準備と緻密な戦略によって、奇跡を必然に変えることができるということを、エディーは選手たちに教えました。前頭葉の決めつけから代表選手たちを解放したのです。

ラグビースタジアムでボールを掴んでいる選手の手
写真=iStock.com/Wavebreakmedia
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身体と無意識から、思い込みを変えていく

エディーのように、外部から「変われる」ことを徹底的に教え込んでくれる存在は貴重です。とはいえそんな人物との出会いがなかなかない私たちは、どのようにしたら「自分は変われない」という思い込みから自由になれるのでしょうか。

脳科学的にいえば、この場合、意識の決めつけが問題なのですから、意識の手の届かない身体や無意識からアプローチするのが有効です。

意識的な「言葉」を使ってなんとかしようとするのは不可能です。なぜなら前頭葉と直接戦うことになってしまうからです。

いくら「そんなことないよ、君はきっと変われるはずだよ。新しいことに挑戦するほうがいいよ」と言葉で説得を試みても、前頭葉は今までの記憶を使って、自分で見積もりを出していますから、その言葉をなかなか信用しようとはしません。だからエディー・ジョーンズも、意識の手の届かない、選手の身体や無意識から変えていったのです。