共感は人間同士でも難しい

共感の難しさを示すエピソードを一つ紹介します。共感のやり方の一つに言い換えがあります。相手の言っていることを、ちゃんとわかったことを示すために自分の言葉で言いかえて相手に伝える方法です。これによって、表面だけではなく、内容まで分かってもらえたと伝えることができるメリットはあるのですが、実はそうとも限らないのだとか。

相手のことを聞くことだけを専門にするサービスがあります。その会社の方にヒアリングする機会があったのですが、そのマニュアルによれば相手の言うことを一字一句そのまま繰り返した方がよい場合もあるというのです。そのような場合は、お客様が「猫がかわいい」と言ったら「猫はかわいいですね」と相づちを打つのが正解で、「猫は愛らしいですね」などと言うと、「愛らしいなんて言ってない! 勝手に分かったようなことを言うな」と言われてしまうそうです。これは共感することの難しさを示していると思います。

女性とロボットの握手
写真=iStock.com/Mikhail Konoplev
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行間を読めないと勘の悪いシステムになってしまう

雑談AIは聞いたこと以上を理解する必要もあります。そうしないと、勘の悪いシステムになってしまいます。「行間を読む」といいますが、スムーズなコミュニケーションのためには、言葉に現れない「言外の情報」を理解することが重要です。

文脈における言葉の意味を解釈する研究のことを語用論と言います。「今日は暑いですね」とユーザが言ったら「クーラーをつけてほしい」という意味であると解釈するのが語用論です。よく「京ことば」などがテレビでも話題になりますが、京都でお茶漬けを勧められたり、時計を褒められたりしたら要注意です。それはそのままの意味ではなく、「もういい時間だから帰ってほしい」という意味だと思われるからです。

私たちの研究グループでは、人間同士の雑談から得られた発話のそれぞれについて、どういう言外の情報が含まれているかを多くの人に書き出してもらい、それらをまとめ上げることで、言外の情報を類型化しました。その結果、大きく二つのグループに分かれることが分かりました。一つは「思考」に関するグループで、もう一方は「事実」に関するグループです。ユーザが何か言うと、ユーザの考えが伝わってくる場合と、ユーザに関する事実が伝わってくる場合があるということです。