ひとつの発話には「思考」と「事実」が詰まっている
思考に関するグループは、さらに、信念(自分がどう思っているか、自分が相手のことをどう思っているのか)が伝わる場合と、願望(自分はどうしたいのか、自分は相手にどうしてほしいのか)が伝わる場合に分かれます。
「ダイエットに成功したなんてすごいですね!」という発話からは「ダイエットは大変だと思っている」とか「相手のことを尊敬している」ことが伝わります。「風邪をひきました」という発話では、「相手に慰めてほしい」や「早く元気になりたい」といった願望が伝わるでしょう。先ほどの京ことばの例は、相手にどうしてほしいかの願望が伝わる場合に分類されると言えます。
事実に関するグループは、さらに、自分のプロフィール・経験・環境に関するものと一般的な事実についてのものに分かれます。「この間授業参観に行った」という発話からおそらく「結婚をしている」「子供がいる」というプロフィールについての情報が伝わるでしょうし、「この間、富士山に紅葉を見に行きました」という発話からは「富士山には紅葉の見どころがある」といった情報が伝わります。
ユーザ発話にどのような言外の情報が含まれているかを認識できれば、協調的な反応をすることができます。たとえば、授業参観の話を相手が切り出して来たら、「お子さんは何歳ですか?」と言ったり、慰めてほしい話者には慰めると喜んでもらえるでしょう。
一方、注意点も
一点注意があって、言外の情報はあまり口に出さないほうがよいということ。特に、相手に対して否定的な言外の情報を得たとしても口に出すことはしないほうが得策です。また、相手の願望を認識したとしても、それも口に出さないほうがよいでしょう。「慰めてほしい」という情報が伝わったとしても、相手に「慰めてほしいのですね?」などと言うと嫌がられてしまいます。
会話において話者がどのように相手に配慮して話すかを説明するポライトネス理論があります。これによれば人間は「相手からよく思われたい」特性と、「相手に自由を侵害されたくない」特性があります。相手に対して否定的な内容を言ったり、相手の願望を決めつけてしまったりすることは、これらに反するのです。よって、言外の情報は理解しつつ、心の中に押しとどめておいて、ユーザに協調的にふるまうことが大事です。人間社会でもそうですが、思ったことをそのまま言えばよいわけではありません。