社会が基礎体力を蓄えることが大切だ
新型コロナウイルスをめぐる未曾有の事態は、この社会のいびつで弱い部分を一気にあぶり出した。
前回記事で述べた「差別・偏見の経験」では、「濃厚接触者になった人から『働けなくなったら給料が減る』」という20代女性にぶつけられた非難があった。この赤裸々な不満の背景には、いったい何があるのか、立ち止まって考えてみる必要があるだろう。
病気になって仕事を休んでも、感染対策のために自宅待機になって出勤できなくなっても、きちんと給料が出る雇用環境の安定や、最低限生活していける程度の経済的支援があれば、このような発言は出てこなかったのではないか。
「感染症に強くなる社会構造の構築を」と回答した60代男性もいた。
当事者の声の数々は、新型コロナウイルスを抑えるには、疫学的な感染対策にとどまらず、実は日頃から社会が基礎体力を蓄えておくことが大切だと教えてくれた。それは、雇用環境の安定であり、病院の逼迫を見据えてマンパワーに余裕を持たせておくことであり、例えば一人ひとりが事実に即した正しい知識を積み重ねて、差別的な言動をしないといったことも含まれるだろう。
新型コロナの収束は見通せず、まだ試練は続く。コロナ禍の今、可視化された弱点を組み立て直し、よりしなやかな強さを備えた社会へと生まれ変わるきっかけにするべきだ。