代わりに「海上民兵」が漁船でやってくる

では、いったい誰が尖閣諸島へ上陸するのかというと、漁船に乗った「海上民兵」の兵士となるだろう。海保と海自が、海警局と中国海軍の動きを妨害することに集中している間に、漁船ですり抜けて尖閣諸島へ接近・上陸するのだ。

中国で「民兵」とは、退役軍人らで構成される準軍事組織で、警戒や軍の物資輸送、国境防衛、治安維持などの役割を担う。このうち漁民や港湾労働者ら海事関係者で組織しているのが海上民兵である。

海上民兵が乗船する船には、「北斗」と呼ばれる中国独自の衛星測位システムのタブレット端末が設置されている。中国語のショートメール機能も備わっているため、これにより指示を受け、海警局や中国海軍と連携して行動することができる。

「警察比例の原則」に縛られる自衛隊

仮に、自動小銃や重機関銃などで武装した海上民兵が攻撃を仕掛けてきた場合、海保の対応能力を上回る事態とみなされ、海上自衛隊に「海上警備行動」が発令され武器を使用することが認められている。

ただし、そこでは「相手の能力や事態に応じて合理的に必要と判断される限度において」という制約、すなわち警察比例の原則が適用される。中国側はこれを熟知していると思われ、自衛隊が武力行使できない状態で尖閣諸島を占拠する可能性がある。

海上民兵は準軍事組織であり、最精鋭部隊は機雷や対空ミサイルを使い、「海上人民戦争」と呼ばれるゲリラ攻撃を仕掛けるよう訓練されている。「人民戦争」とは、簡単にいえば、正規軍だけが戦うのではなく、人民を組織し、人民の力に依拠してすべての人民が戦う戦争をいう。

武力攻撃と直ちに認定できない「グレーゾーン事態」を狙う

2016年8月、尖閣諸島周辺の海域に中国公船20隻以上が押し寄せた。このとき、ともにやってきたのが400隻以上の中国漁船だ。一部報道によると、この漁船群には少なくとも100人以上の訓練を受けた海上民兵が乗り込んでいたという。

別の報道によると、福建省の漁民らは「釣魚島の近くで民兵の船を見た」と口をそろえる。ある漁民は、「漁場に着いても漁をしないので、どれが民兵の船かはすぐにわかる」と話している。

海上民兵は銃器の取り扱いの訓練も受けている。しかし、魚釣島上陸に際しては、武器は自衛用の小銃にとどめるだろう。あくまでも武力攻撃と直ちに認定できないグレーゾーン事態の範疇での行動にとどめ、自衛隊に「海上警備行動」よりも高度な「防衛出動」が発令されることを避けるのだ。