クーデターの端緒は「軍政対NLD」の政治的な争いを示していた。しかし、日がたつにつれ、政権を取ったはずの軍部がいくら警告しても、大多数の市民はこれに怯まず民主化へのデモをあらゆる形で継続している。中国の外交官らの目には「自国ではあり得ない国民による民主化に対するうねり」と映り、これこそが中国にとって外交戦略上の脅威となるからだ。
中国に好都合な「ミャンマーの将来」とは
陳海駐ミャンマー大使は「中国とミャンマーはお互いに引っ越すことができない隣国同士」とした上で、「ミャンマーの一日も早い政治的な安定の回復を期待する」と述べている。
しかし、本音はここにはないだろう。中国にとって都合が良いミャンマーの将来とはどのようなものか、想像してみたい。
もし、このままミャンマー軍政が政権を掌握したらどうなるだろうか。西側社会からは厳しい経済制裁に遭い、国際経済の枠組みから取り外される。
その一方、中国人が頻繁に出入りし資本が流れ込み、人民元が流通するような「ミャンマー経済の中国化」が起こり得る可能性もある。実際に、ミャンマー第2の都市で中部にある古都・マンダレーは、次々と中国人による工場が建つなど中国資本に食い尽くされてきた過去がある。
一方、国際社会の支援と民衆の力で軍政を押し返し、クーデター前の民政を取り戻すことができたなら、一党独裁による全体主義を標榜する中国にとって新しいミャンマー政府との関係構築では難しい舵取りが迫られるだろう。まして、ミャンマー人らがこぞって「中国に後押しされた軍政をひっくり返して、民主化を勝ちとった。アウンサンスーチー氏は私たちのヒロインだ」とでも言い出したら、それこそ「中国にとっておもしろくない状況」がここかしこに立ち現れる。
「一帯一路」実現に不可欠な地の利
国家一大事業として「一帯一路」を掲げる中、中国にとってミャンマーはインド洋に向かって開かれた石油・ガス資源確保の重要な橋頭堡だ。なぜなら、ミャンマー国内にパイプライン等を通すことで、万一、西側諸国と一戦を交えることになった際、アメリカの影響が強いマラッカ海峡を通ることなく、中東から天然ガスや原油を輸入できるから、という事情による。
中国は「一帯一路」の一環として、ミャンマー北部と接する中緬国境の街・瑞麗と、インド洋に面したチャウピューとの間に天然ガスのパイプライン(全長800キロ)を敷設した。2013年に完成したこのパイプラインだが、そもそも民政移管前のミャンマーで欧米各国の制裁下にある中、権力の空白状態に乗じて中国が軍政に歩み寄り、一気にパイプラインを建設したという経緯がある。今や並行する形で石油パイプラインも通っている。