90年代の時点ですでに創造性を伸ばす教育を行っていた日本
もちろんこの評価はある程度主観的なものにならざるを得ません。それでも、この評価は、十分に経験を積んだ数学者と数学教師のチームによって行われているため、評価結果に一定の信頼性があります。
スティグラーによれば、日本の数学の授業は、アメリカとドイツに比べてずっと質が高いようです。質が高いとされる授業の割合は、日本が39%であるのに対し、アメリカは0%、ドイツは28%でした(図表2)。
1つ補足ですが、このスティグラーが使った授業のビデオは、1994年から1995年に撮られたものです。けっこう昔ですね。1990年代以降、日本は学校教育に対する改革を多数行ってきました。
2000年代にはゆとり教育が本格的に導入され、2020年にも「アクティブラーニング」の導入を含め、再度教育改革が行われました。どちらの教育改革も、これまでの学校教育が知識偏重だったという反省から、より創造性を伸ばす教育へと移行することを目指したものです。
しかし、スティグラーによれば、1990年代の日本の学校教育も、少なくともアメリカやドイツに比べれば創造性を伸ばす教育だったことになります。2000年以降の教育改革を準備した方々は、このスティグラーの本を読んでいなかったのでしょうか?
日本の45歳から54歳までの学力は世界一
日本のかつての教育が創造性を伸ばすものであったことを、ピアックのデータも傍証しています。
ピアックとは大人のためのピザでしたね。大人を対象として、知識を創造的に使えるのかを調査しています。もし旧来の教育が創造性を伸ばすものでなかったとするならば、その教育を受けた世代の日本のピアックの点数は低いはずです。
しかし、現実にはそうなってはいません。図表3を見てください。
この図表には、ピアック(2011~16年に実施)を受けたときに45歳から54歳だった世代の数理的能力と読解力の点数が示してあります。日本は世界一です。この世代は、「新しい学力観」が提示される1980年代末より前の教育を受けています。
それにもかかわらず、少なくともピアックで計測される創造性に関しては参加38カ国中で1位なのです。なるほど、旧来の日本の授業は一斉授業だったし、先生が授業をリードしていたかもしれません。見た目は古臭いかもしれません。
ですが、スティグラーの調査やピアックの結果からすると、どうやらこの古臭く見える教育は子どもたちの創造性を育むことに成功していたようなのです。ここから学ぶべき教訓は、見た目に騙されてはいけないということかもしれません。
私たちは大丈夫でしょうか?
いま、アクティブラーニングが導入されつつあります。子どもたちが授業を受動的に聴くのではなく、自ら活動することを通じてアクティブに学ぶ。かっこいいですね。ですが、自ら活動することで、見た目だけでなく、子どもたちの頭の中もちゃんと「アクティブ」になる保証はあるのでしょうか?
スティグラーの調査結果やピアックの結果は、こうした問いを私たちに突きつけているように感じられます。