堂々と逃げ道を歩くこと

中学三年生の時、「白衣を着て実験がしてみたい」というたったそれだけの理由で、(本当にたったそれだけの理由で)理系の高校に進学した。ド文系だった私はもちろん高校の勉強についていけず、高校一年目にしていとも簡単に留年の危機に陥った。私の輝くべき十五歳の青春は、等加速度直線運動と物質量のmol計算に食い殺されてしまった。

にゃんたこ『世界は救えないけど豚の角煮は作れる』(KADOKAWA)
にゃんたこ『世界は救えないけど豚の角煮は作れる』(KADOKAWA)

このままでは留年してしまう。そう思った私は、ある一つの解決策を見出した。転校である。

県内でも有数の進学校から地方の普通科高校への転校で、「落ちこぼれ」や「都落ち」など皮肉めいた言葉もたくさんかけられたが、実際にそのとおりなので何も言い返せなかった。周りが当たり前にできていることをできない自分が情けなかった。当時の私はこの自身の転校を「未来への前進」ではなく「現状からの逃避」と認識していたからだ。

十年以上経った今、私はあの時の自分を、よくやった! と褒めてやりたい。もちろん、逃げ続けるのは良くないことだ。私だってできることなら、等加速度直線運動の織りなすグラフをサーファーよろしく乗りこなしたかったし、水の分子量やmolの質量をダイソーの計量カップで測れるような人間になりたかった。でも、できなかったのだ。

選んだ世界
YouTubeチャンネル「にゃんたこ」の『独身女の孤独なハーゲンダッツ』より

できないことをできないまま生きていくことは、そんなに悪いことなんだろうか? と大人になった今、強く思う。私にできないことは、できる誰かがやればいい。そのためにこの地球には七十五億もの人間が存在しているのだ。

目の前にそびえたつ高い壁を登りきらなきゃ次のステージに進めないなんて、ゼルダの伝説じゃありえない話だ。秘密の三角マークで壁を動かしたり、道具を使って未来にワープだってできる。

私達は、私達が思うよりももっともっと、逃げ道を選んだっていいと思うのだ。道端に咲く花の蜜でも吸いながら、堂々と逃げ道を歩いてやったって。

【関連記事】
メンタル不調のときにまず食べるべき最強で手軽な「うつぬけ食材」
「高収入、正社員、家庭円満…」育児ドラマに超特大ファンタジーが必要な日本のつらみ
富裕層は「スマホ」と「コーヒー」に目もくれない
「1日30万円を稼ぐリンゴ売り」妻子6人を行商で養う38歳の元ジャズピアニストの半生
「洗脳するまで目的は伝えない」起業を夢みてセミナーに通った20代女性の悲惨な末路