欧米諸国におけるマスコミへの信頼度は低い
マスコミ(新聞・雑誌、テレビ)の信頼度は日本で特に高く、こうした高い信頼度にもとづき、新聞・雑誌などのマスコミは日本の世論形成に大きな影響力を保っている。これとは対照的に、他の欧米諸国におけるマスコミへの信頼度は低い。特に英国では政党に対してすら下回っている。
政府の信頼度との関係では、日本では、政府発表よりマスコミの報道のほうが信じられているのに対して、欧米諸国では、「どっちもどっち」か「政府のほうがまだまし」という状況にあるのである。
宗教団体への信頼度が日本の場合10%未満と極端に低いのに対して、キリスト教の地位の高い欧米では30%台~50%台と一定程度高くなっている。
応用問題として掲げた参考事例のミャンマーではどうだろうか。ミャンマーの調査時期は2020年1~3月だったことを念頭において見てみよう。
途上国ではめずらしくないのであるが、ミャンマーでは種々の組織・制度への信頼度が概して高い。仏教信者が多いという背景から宗教団体への信頼度は特に厚い。先進国では低いのが一般的な政府、議会、政党といった政治組織についても決して信頼度は低くない。
こうした中で、ミャンマー国民の軍隊に対する信頼度を見ると33.3%と他の組織・制度と比較して非常に低く、スーチー氏が率いていた政府と比較しても低さが目立っていたことが分かる。だとすると、やはり、報道されているように、国軍への国会議員数割り当てを減らすという文民政権が提起している憲法改正案によってミャンマー軍はかなり追い詰められていたのだと考えられるのである。
途上国を含めた世界の中でも日本のマスコミ優位は突出
最後に、政治とマスコミに対する信頼度の相対関係について、主要先進国だけでない、もっと多くの国の状況から日本の位置を探ってみよう。
図表3には、最新の世界価値観調査が行われた国のうち人口1000万人以上の47カ国を対象に、X(横)軸に政府に対する信頼度、Y(縦)軸に新聞・雑誌に対する信頼度をとった散布図を描いた。この散布図からはいろいろなことが読み取れる。
まず、X軸(政府)を見てみよう。
先進国で政府を信頼しているのはせいぜい国民の50%程度までであり、多くは20~30%にとどまっている。そうした意味からは日本人のうち4割程度が政府を信頼しているのはまだいいほうとも言える。
一方、途上国(ロシアなど体制移行国を含む)では、政府への信頼度は10%以下から100%近くまで非常にばらつきが大きい点が目立っている。中国やベトナムなど社会主義国は9割以上と非常に高いが、フィリピンやミャンマーでも8割程度の信頼度となっている。もちろん、本当に信頼しているのか、それとも信頼せざるを得ないだけなのか、真情はにわかにつかみがたい。
他方、グアテマラ、コロンビア、ペルーといったラテンアメリカ諸国では政府への信頼度は10%前後と非常に低く、どの先進国をも下回っている。
次に、Y軸(新聞・雑誌)であるが、途上国については、ほぼ政府への信頼度と同じようにばらつきが大きく、また、政府への信頼度とほぼ平行して高低が分布している。すなわち、政府への信頼度と新聞・雑誌への信頼度とはリンクしているのである。
中国、ベトナム、フィリピンといった国では政府も新聞・雑誌も両方とも信頼されているが、コロンビア、グアテマラといった国では両方とも信頼できないと思われているのである。
新聞・雑誌への信頼度と政府への信頼度の相関度が高い背景としては、途上国では、ましてや社会主義国では、官製マスコミの役割が大きいという事情も作用している可能性があろう。
この点、先進国では、新聞・雑誌への信頼度は、やはり、ばらつきが大きいが、途上国と異なって、必ずしも政府への信頼度とはリンクしていない。政府とは一定の距離を保った報道機関が多いせいもあろう。
その最たる例は日本である。他の先進国がいずれも新聞・雑誌に対してはほぼ5割以下の信頼度しかないのに、日本だけ7割近くと非常に信頼度が高く、政府への信頼度と比べて差が大きい点が非常に目立っている。この散布図には45度線を描き入れてある。この線より上では信頼度が政府より新聞・雑誌が上回り、下なら逆である。日本は、45度線から上へ乖離している程度が世界の中で最も著しいのである。
他のG7諸国、すなわち、英米、フランス、ドイツ、イタリアといった国では、日本と異なって政府も新聞・雑誌もどちらも信頼できないという国民が多いのであるが、政府はあまり信頼できないが新聞・雑誌は信頼できると見なしている点で日本人は特異なのである。