次期社長は「撤退の歴史」を繰り返してきた化学品出身
「次期社長を打診されたときは、頭の中が真っ白になった」――。
1月の伊藤忠商事の社長交代会見。鈴木善久社長COO(最高執行責任者)からバトンを継ぐ石井敬太専務執行役員の言葉だ。
それはそうだろう。石井氏が長く在籍したのは化学品部門。会見でも「(伊藤忠の)化学品事業は撤退の歴史。そうした場面の立ち回りは経験が豊富だ」と苦笑しながら話した。それだけ驚きの人事だったということだろう。
「会長CEOである岡藤正広氏の“焦り”の表れ」
今回、社長COO在任3年足らずの鈴木氏から石井氏への交代について、伊藤忠は「今後はSDGs(持続可能な開発目標)が重要になる。環境問題などエネルギー化学部門はその責務に取り組むには最適で、そこで長年舵を取ってきた石井氏は適任だ」と説明する。
しかし、社内ではこうした見方が広がっている。
「会長CEOである岡藤正広氏の“焦り”の表れだ。鈴木氏は岡藤会長の期待にこたえられなかった」(伊藤忠幹部)
商社業界は三菱商事を筆頭に、三井物産、住友商事と「財閥御三家」が長く業界のトップ3に君臨していた。万年4位が定位置だった伊藤忠のトップに岡藤氏が就任したのは2010年。海外の駐在経験もなく、繊維アパレルといった「傍流」を歩んできた同氏が社長になって掲げたのが「打倒・財閥」だ。