「電力会社や鉄鋼会社と付き合えないと商社ではない」と言われる中、伊藤忠もLNGや石炭・鉄鉱石などの事業を手掛けてきた。しかし、関西の繊維問屋が発祥の同社は、東京電力や日本製鉄などに「一向に相手にされない」(岡藤会長CEO)状態だった。

石油事業でも「和製メジャー」を目指してアラビア石油から1966年に東亜石油を買収するが、オイルショックで石油より割安なガスが普及すると、大きな損失を計上。1986年には石油精製事業から撤退した。

純利益、株価、時価総額の「業界三冠王」は確実だが…

そんな中で伊藤忠は、「資源エネルギー分野では三菱・三井の牙城は崩せない」と判断、生活産業分野に活路を見いだし、ポートフォリオを組み替えた。電話1本で100億円単位の利益を上げる資源エネルギービジネスに見切りを付け、1銭1円の利益の積み重ねで生き残りを目指した。

岡藤氏はその陣頭指揮を執った。市況の変動で業績が乱高下する資源エネルギー分野での投資を絞り、アパレルや食品など生活産業の拡大に力を入れた。

象徴となったのが西友から買い取ったコンビニエンスストアのファミリーマートだ。

今期はコロナ感染拡大による資源価格の低迷でLNGや石炭などの収益が激減した三菱商事や三井物産を抜いて、純利益と株価、時価総額で業界トップとなるのが確実だ。

それだけに、社内では岡藤氏が求めてやまない「業界・三冠」の達成を花道に「会長CEO職を鈴木社長COOに譲る」との見方が大勢だった。

ところが、三冠王を達成したにもかかわらず、ナンバー2の鈴木氏を退任させ、自身の続投を決めたのはなぜか。その背景にあるのが、「岡藤プロジェクト」とも言われる6000億円を投じた中国中信(CITIC)との提携案件とグループの核となるファミリーマートの不振だ。