キリンはコロナ禍を「本麒麟」のヒットにつなげた

ビール系飲料を巡っては、2020年10月の酒税法改正で350ミリリットル当たりの税額はビールで7円の減額、これに対して第三のビールは逆に9円80銭の増額となった。各社は第三のビールの増税前の駆け込み需要を狙って販促キャンペーンを展開し、キリンはコロナ禍での消費者の節約志向とも相まって「本麒麟」のヒットにつなげた。

「本麒麟」(350ml缶、500ml缶)
「本麒麟」(350ml缶、500ml缶)(画像提供=キリンビール)

ビール系飲料でキリンはすでに2020年上期(1~6月期)で首位奪還を果たしており、業界内では「アサヒの年間シェア首位陥落は時間の問題」ともささやかれていた。

上期の時点で、両社のシェアはキリンの37.6%に対してアサヒが34.2%と3.4ポイントもの開きがあった。それを2020年の年間シェアでその差を1.9ポイントに縮めたのは、10年もの間、首位の座を守ってきたアサヒの意地と踏ん張りがあったからだろう。

しかし、アサヒの首位陥落については、万年3位のじり貧で1980年代に“死に体”に陥っていたアサヒをよみがえらせ、シェアトップに押し上げた救世主「スーパードライ」で得た「成功体験」が染みついた慢心が、やはり見え隠れする。

キリンもかつては「キリンラガービール」で60%という圧倒的なシェアを握り、「ガリバー」とはやされた時期もあった。その驕りがその後の凋落ちょうらくにつながったとの指摘は定説になっている。

首位返り咲きの立役者は「P&G出身」

振り返れば、「スーパードライ」もデビューは1987年3月で、間もなく発売34年を迎える。1997年に初の年間シェアトップを手にしてから四半世紀近くもたち、その間に「スーパードライ」で育ったビール愛飲者の世代も入れ替わった。その意味で、11年ぶりとなったキリンとの逆転劇は、歴史は繰り返すことを実証する。同時に、みえざる「成功体験」の“罠”が再びビール業界の歴史にエポックメーキングとして刻み込まれるかもしれない。

アサヒ スーパードライ(350ml缶)
アサヒ スーパードライ(350ml缶)(画像提供=アサヒビール)

ただ、キリンの首位返り咲きには布石があったことも見逃せない。それはマーケティングを担当する山形光晴常務執行役員の存在だ。

山形氏はマーケティングの人材輩出企業として定評のあるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)出身で、2015年に入社し、2017年からマーケティングを担当。主力ビール「一番搾り」の刷新、そして「本麒麟」を投入し、ヒット商品に育て上げた。

最近も日本で初めてビールで「糖質ゼロ」を実現し、2020年10月に発売した「一番搾り 糖質ゼロ」は「家飲み」や健康志向の消費者ニーズを捉え、好調に売れ行きを伸ばしている。山形氏の登場は「公家集団」と揶揄やゆされてきたキリンに外部の風を吹き込み、すでにレガシーと化したガリバー時代の「成功体験」を葬り去った、まさにキリンの首位返り咲きの立役者だ。