光通信ネットワーク構想「IOWN」の狙い

4兆円を超える大枚をはたいてドコモを傘下に入れたNTTが期待を寄せるのが、2019年5月に打ち出した光通信ネットワーク構想である「IOWN(アイオン)」だ。

NTTドコモ
写真=iStock.com/GA161076
※写真はイメージです

核となる技術はNTTが開発した光電融合技術、光を使ったトランジスタ回路だ。

NTTは光を使った半導体の基礎技術開発に世界で初めて成功。2019年4月に英科学誌「ネイチャーフォトニクス」に掲載され、世界の注目を集めた。

IOWNの背景にあるのが「データトラフィック(通信量)」と「消費電力」の急速な増大だ。

現在の情報通信技術の基盤は、スマートフォンやパソコンからクラウドに至るまで電子回路を流れる「電子」が半導体を動かし、複雑な計算から画像処理までこなしている。しかし、AI(人工知能)の利用拡大で世界のデータ総量は、爆発的な増大に直面している。

米調査会社IDCによると、2020年に世界で生成、消費されるデータ総量は59ゼタ(10の21乗)バイトを超え、10年前の約60倍に膨れ上がる見込みだ。さらに今後3年間で生まれるデータ総量は、過去30年間の累積を上回る見通しという。

データ爆発に伴う「熱」と「電力」のボトルネックを解消

これまでは半導体の微細加工で克服してきたが、半導体の集積率が18カ月で2倍になるという「ムーアの法則」は「今や限界に近づきつつある」(NTT幹部)。電子が流れる回線が近接しすぎると、熱を持ちショートしてしまうからだ。

一方で光は熱を持たない。

さらに大量のデータを電子を使って流すには多くの電力を使う。このデータ爆発に伴う「熱」と「電力」のボトルネックをどう解消していくかにITの巨人たちは頭を悩ませていた。

「ぜひ、一緒にやらせてくれ」。同じように「光」に注目していた米インテルのボブ・スワン最高経営責任者(CEO)はNTTの澤田社長に近づいた。

パソコンの黎明期に世界を制したインテルも、スマホの時代には米クアルコムに立場を逆転された。ポスト5G・6Gに向けて「ゲームチェンジ」を目指すのはNTTも同じだ。

NTTは光技術を使った回路について、現行の電子回路と比べて100分の1の消費電力に抑えることを目指している。スマホの処理機能に応用した場合、充電が1年間不要になる可能性を秘めている。AIの普及で量子コンピューターなどスーパーコンピューターの競争が激しさを増しているが、そこでもこの光回線技術は通用する。