ネスレはDXで何を目指しているのか

ネスレ日本 島川基さんインタビュー

——DXに取り組むようになったきっかけは?

1866年にスイスで創業したネスレの祖業は「乳児用製品」の販売でした。乳幼児の死亡率が高い時代でしたので、社会の問題解決につながる製品となりました。現在でも、全社的に「ネスレのマーケティング=社会の問題解決」として捉えています。

日本は30年ほど前まではモノを作れば問題解決につながっていましたが、モノが満ちあふれた世の中になりました。今ではモノを体験する機会やサービスに転換して付加価値を届けなければ、お客様の求めているものにならないと発想が変わってきたのです。

日本では「いつでもどこでも提供できる」ことがコーヒーの市場やマーケットを拡大するきっかけになっていたと考えます。

では、たとえば「缶コーヒーがあったから、コーヒーの需要拡大につながったのか」と考えると、それは半分が正解で、半分は間違いだと思います。缶コーヒーだけでなく「自動販売機」というイノベーションがあったから、いつでもコーヒーを飲めるようになった。そして、それが「いつでもどこでもコーヒーを飲みたい」という問題解決となったわけです。

その中で、「ネスカフェ アンバサダー」は、お客様のオフィス内で高品質なコーヒーをリーズナブルにいかに利便性を高めて提供できるかを考えたサービスです。お客様とつながり、直接サービスを提供できることが問題解決になるのだとすれば、私たちにとってはECやDXは必然的な課題となってきました。

反発を恐れてEC専用商品を立ち上げるのは誤り

——メーカーは流通や小売への卸売が一般的ですが、既存チャネルからの反発もあったのでは?

反発は当然に起きます。そのコンフリクトを恐れるあまり、EC専用品や異なるビジネスを立ち上げることが多いと見受けられますが、それによってレバレッジが利きにくくなり、シナジーを生むのも難しいといえます。自社の強みが生きないポートフォリオをお客様に提供するのは、誤りだと考えています。

ネスレ日本は市場から長く愛されているブランドを有していることもあり、卸店や小売店のみの視点ではなく、お客様の視点での製品を提供しよう、と考えました。何より、家庭内外でもコーヒーの飲用が習慣化し、お客様とダイレクトのコミュニケーションを継続できれば、コーヒーの消費量は増えるはずですから。