三菱商事が参画するベトナムプロジェクトに投資家が撤退要請

三井物産に限らず、総合商社大手にとって、稼ぎ頭ながら海外石炭火力発電事業の縮小・撤退は避けて通れない重要課題であることは間違いない。

ESG投資へのシフトを鮮明にする世界の機関投資家や金融機関からの出資や融資が途絶えかねないリスクを内包するだけに、もはや時間稼ぎは許されない。

工場の煙突からの煙
写真=iStock.com/DWalker44
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丸紅は2018年9月、2030年までに石炭火力発電事業規模を半減し、新規事業に取り組まない方針を表明した。三菱商事、住友商事、伊藤忠商事も原則、新規事業に参画しない意向を示し、総合商社大手5社は脱石炭火力で足並みをそろえる。

ただ、5社の基本スタンスは新規事業に対する停止が主体で、既存事業については、まだ撤退に踏み切れない。

実際、日本、ベトナムの国家プロジェクトとしてベトナムで計画されている石炭火力発電所「ブンアン2」の建設には三菱商事が参画し、今後も継続する意向だ。

しかし、こうした企業姿勢に機関投資家の対応は容赦しない。

「ブンアン2」の建設プロジェクトを巡っては、2020年10月、北欧最大の機関投資家ノルデアはじめ、アムンディ、AP7、アリアンツなど欧州を中心にした21の投資家連合が建設計画に関わる12社に「計画撤退を要請する」との書簡を突き付けた。うち8社は三菱商事をはじめとする日本企業だ。

ESG投資の奔流と国家間プロジェクトの板挟み

さらに2021年1月5日には、学生環境団体に所属する日本とベトナム、韓国の学生が三菱商事や金融機関に対して抗議する動画をインスタグラムに公開し、日本の学生らが事業の関係先に公開質問状を送付した。

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんも「キャンペーンを全面的に支援しています」とメッセージを寄せ、話題となった。

その意味で、「ブンアン2」のプロジェクトは、総合商社大手が東南アジアを中心に世界各地で展開している石炭火力発電事業について、「脱炭素」推進の観点から真っ先にやり玉に挙がる象徴的存在になっている。

同時にそれは、世界的なESG投資の奔流に飲み込まれる一方で、日越の国家間プロジェクトの板挟みにあい「抜け出したくても抜けられない」ジレンマを抱える事情を浮き彫りにする。