「大丈夫じゃないのが日本の『普通』で、だから『普通』だし大丈夫だと自分に言い聞かせていたのかも」。これは小説の中の一節で、私は痛いほど共感した。学生のとき、痴漢にあっても「それはよく起きる『普通』のことだ」と自分に言い聞かせた。本当は震えて電車に乗れなくなるほど怖かったのに、授業前、最悪でキモイ「ネタ」として友達に笑って話した。
魂は疲れるし、魂は減る
ほかにも「魂は疲れるし、魂は減る」という節を読み、私はレイプ被害にあったときを思い出した。これまで何度も傷つけられてきた魂が「殺された」と感じた。まるで自分という「車」の「ハンドル」を根こそぎ持っていかれてしまい、これから自分をどう「運転」していけばいいのかわからないような感覚に陥った。しかしそれから、魂を永眠させないように、取り戻すように、必死に生きてきた。
「自分の魂をなくさずに、この世界に立ち向かっていく意志や宣言をこのタイトルには込めました。持続可能なものとして自分の中に維持していって、何とか頑張ろうという気持ちを読者に伝えたかった」と松田さんは語る。
これ以上、「おじさん」に誰かの魂を削ってほしくない。いつか世界がこのカッコから解放される日を願い、この小説を幅広くおすすめしたい。