パリから逆輸入された「日本のアール・ブリュット」とは何だ

「芸術の最良の瞬間は、その名を忘れたときである」。フランス語で「の芸術」を意味するアール・ブリュット(Art Brut)は1945年、フランスの画家ジャン・デュビュッフェ氏が提言した。アートがアカデミックで高貴なものだった当時、精神病患者の作品集を見た彼は、伝統や流行、教育などに左右されず自身の内側から湧きあがる衝動のままに表現した「生の芸術」に心を揺さぶられたという。

筆などを使って壁に描くのではなく、唾液と爪で壁をけずり描かれた壁画「無題」勝山直斗作。アール・ブリュット2020特別展「満天の星に、創造の原石たちも輝く」は、東京都渋谷公園通りギャラリーで12月6日まで開催中(たかはしじゅんいち=撮影)。
筆などを使って壁に描くのではなく、唾液と爪で壁をけずり描かれた壁画「無題」勝山直斗作(たかはしじゅんいち=撮影)。

そんなアール・ブリュットに心を奪われ、キュレーターとして関わってきた小林瑞恵さんは2000年代半ばに何度か日本での展示を試みたが、国公立の美術館は名もない芸術家の作品に対し関心を寄せなかった。

ところが10~11年に日本のアール・ブリュットを紹介する大規模な展覧会がパリで開かれ、12万人もの人を惹きつけた後、日本でも注目されるようになった。そうして、日本のアール・ブリュットは「逆輸入」されたのだ。