そうした「不幸中の幸い」とも言える「意図しないサクセスストーリー」があったところへ、さしたる判断基準もなく政治的駆け引きの中で私権制限が決定されるとすると、家計・企業部門の消費・投資意欲は中長期的に一段と抑制される懸念がある。

そうした「民間部門の貯蓄過剰」の傾向こそが物価や金利が低位安定する真因であり、世界的に進む日本化の震源なのである。

「失われた40年」につながりかねない

図表3は2020年7~9月期までの日本の貯蓄・投資(IS)バランスを見たものである。厳格な経済活動制限を経て、家計部門の貯蓄過剰は急増し、企業部門では貯蓄過剰状態が横ばいとなっている。

日本の貯蓄・投資(IS)バランス

企業部門の貯蓄過剰が極端に増えていないのは、売り上げが立たない中でコストがかさんでいるため営業余剰(要は利益)が増えないからだ。いずれにせよ家計、企業を合計した民間部門全体では貯蓄過剰が急増している。

この貯蓄過剰を、政府部門が貯蓄不足になることで何とかカバーしているというのが今の日本経済の姿である。大きな貯蓄(供給)を掃くための借入(需要)が存在しないので、お金の値段である「金利」は必然的に上がらない。

日本経済は「失われた30年」を通じてそのような姿が維持されてきたわけだが、現状ほど極端な姿になったことはない。もちろん、2020年に出現した極端な姿は経済活動制限という特殊な政策の結果であり、永続性を期待するものではないかもしれない。

東京駅前の横断歩道を忙しく歩き去る人々
写真=iStock.com/ooyoo
※写真はイメージです

だが、今後も断続的に緊急事態制限やこれに類する措置が打たれるのだとすると、図表3に示す「ワニの口」のように開いた「民間部門の超・貯蓄過剰と政府部門の超・貯蓄不足」という構図が常態化するのではないかという怖さがある。それは「失われた40年」につながりかねない構造変化である。ちなみにこうしたISバランスの姿は程度の差こそあれ、欧米も同じ様相を呈している。

こうした世界では賃金はもちろん、物価や金利も上がりようがなく、ひたすら拡張財政とそれを支える金融緩和を頼りに経済活動を営む低体温の経済が展開される。

2回目の緊急事態宣言を受けて、「貯蓄という正義」という観念は一層強まるだろう。少なくとも2021年に到来する「次の冬」を無事に越せるまでは、そう考える家計、企業は多いはずである。(2021年1月7日時点の分析)

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