機械の修理は決して延期しない

なぜかといえば、それは急回復させるために、設備と機械の計画保全を先送りしたからだった。計画保全とは壊れていない機械、寿命が来たわけではない設備を先々のことを考えて定期的にオーバーホールすることだ。

本来はそこまでやらなくてもいいことだけれど、トヨタの現場では高い可動率を維持するために外注保全費にも定期的に予算を使っていた。ところが、リーマンショックの時は繰り延べたのである。

「あの時は、計画保全を先延ばしにした。だがリーマンショックから3年経った時、設備、機械の修理が増えた。しかも、突発で症状が出たから、専門家に突貫で直してもらうことになる。そうなると、修理費も高くつく。設備、機械はちょっと摩耗した時に変えればいいんだ。その方がかえって安くつく。だが、いい勉強になった。以後、我々は設備、機械の修理を先延ばししたことはない」

工場の中の赤く光る信号
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「危機管理の失敗」から学んだこと

「ただし、その後、うちは定量保全から兆候保全に変わってきている。定量とは生産量に応じて、生産量が多い時には1回、少ない時には2カ月に1回、期限を決めてやること。これが定量保全。だが、リーマンショックの後の大修理からは兆候管理にして、故障する兆候が見えたものから順次、直したり、交換することにした。さまざまなところにセンサーを付けたんです。

『電圧がちょっと高めに出てきた、どこかが摩耗して負荷がかかってるんだな。じゃあ、早めに換えよう』。時期を待たずに兆候が出たら換える。すると大修理が少なくなる。ただ、兆候を知るためにセンサーをつけるポイントが問題だ。どこでもいいわけじゃない。匠の保全マンが、ここだという場所に取り付けないとセンサーの役割を果たさない。リーマンショックは危機管理で成功ではなかった。だが、いろいろ教えてもらった。

あの時の反省として、今回の新型コロナ危機では『修理の金はケチるな』と社長も番頭も言ってくれた。現場にしてみればありがたい話ですよ」

トヨタ生産方式は「コロナ赤字」も防いだ

河合はリーマンショックの後、急回復できたのは「トヨタ生産方式をちゃんと運用したから」と言っている。

止めるべきラインは止め、止めるべき拡張計画も止めた。原価を低減し、いい車を安く作れるようにした。そうして、経済が回っていた中国など新興国マーケットで新車の販売を伸ばしていったのである。

危機から回復するには原則を原則通りに運用する。原価を低減するとともに。出て行く費用を減らす。それを毎日やる。

今回の新型コロナ危機ではリーマンショックの反省を生かして、フレキシブルな対応をすることができた。それが赤字決算に陥ることがなかった理由だ。