家探しをしている時に「この物件は掘り出し物ですよ」と言われたことはないだろうか。公認会計士・税理士の山田寛英氏は「現在の制度上、消費者が不動産屋から、おトクな物件を買うことは不可能に近い」と指摘する――。

※本稿は、山田寛英『不動産屋にだまされるな』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

不動産投資
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1650万円の物件を1220万円で買い叩いた不動産屋

家を探して不動産屋とやりとりをしていると、ときに「この物件は掘り出し物ですよ」と迫ってくる営業がいるかもしれない。しかし現在の制度上、消費者が不動産屋から、現実として価値のある、おトクな物件を買うことは不可能に近い。それはなぜか。

新築の場合は、完成した時点でしっかりと利益が乗っているのはもちろん、もし中古で掘り出し物が出てくれば、情報を先に入手した不動産屋が先んじて動いて利益を確保し、適正価格にしたうえで、ようやく一般の市場に出回るからだ。

たとえば「不動産トラブル事例データベース」によると、平成11年5月、消費者から物件の売却の依頼を受けた不動産屋が、1650万円で買うという購入希望者(買主)の存在をわざと隠し、自ら安く買い叩いたケースが見られる(「裁判事例、媒介業者による不当な買取り」)。

この事例では本来、1650万円で売れる価値のあった物件を、不動産屋が売主に対し、「同じマンションの別の住戸が980万円で売れており、市場でこの物件を1000万円以上で売ることは難しい。でも1220万円でいいなら私が買ってあげる」とウソをつき、売買契約を締結させている。裁判の結果としては、詐欺として売買契約が解消されたものの、もし売主が違和感を抱かなければ、不動産屋は安価に買ったものを、そのまま適正価格にし、購入希望者へ転売するつもりだったと思われる。

証券会社の社員が株を買えない理由

ここで不動産市場を、株式市場と比較してみよう。

株式市場で、証券マンが有価証券を買うのが厳しく制限されているのは周知のとおり。商売柄、これから株価のアップダウンにかかわるであろう情報を入手した株式を自ら購入できれば市場の公正さが阻害され、インサイダー取引だらけとなって、健全な市場が成り立たなくなるからだ。だからこそ株式について、証券マンが自身で株を売り買いすることは厳格に禁じられている。

一方、株取引についての知識や経験を蓄え、その売買で出た利益を「飯の種」にする人たちはプロトレーダーなどと呼ばれる。そうしたプロと、さほど知識も経験もないアマチュアが同じ土俵で売り買いを行うのが株式の特徴である。