配達が無くても1150円……北欧流「サステナブル経営」

ウォルトは寒冷地であるフィンランドで、天候や交通の状況に応じて効率よく配達できる独自のアルゴリズムを持ち、配達時間の短縮に取り組んできた。「1つの最適化ルートを出すために100の数値を使うこともある」(クーシ氏)。厳しい環境で鍛えたシステムなら、他の地域ではたやすく応用できる。日本でも札幌や仙台、盛岡といった寒冷地での展開を優先させて実績を積んできた。

さらに「北欧流」の手法は、企業の持続性を問う「サステナブル経営」にも生かされている。個人事業主でもある配達員には、事前に稼働時間を登録すれば最低報酬を得られる「最低賃金保証制度」を導入している。事前に稼働時間を登録すれば、その間に配達がなくても、東京なら法定最低賃金を上回る1150円が支給される。配達中の事故についても傷害補償制度を導入している。

待遇の手厚さは他のフードデリバリー事業者をしのいでおり、配達員を確保しやすいという。

「大きな費用をかけたマーケティングを行わなくても、口コミや紹介で来てくれる人が多い。ウォルトで働くことに満足度が高いからだ。報酬も大事だが、加えて柔軟に働ける選択肢があることが重要で、フェアな報酬体系とのバランスを取っている。北欧の企業として、サステナブルな経営をしていきたい」

若き成功者、見据える先は

創業者兼CEOのミキ・クーシ氏は31歳で、大学中退後、テクノロジーイベント「Slush」を世界有数の祭典に育て、東京開催まで実現させた手腕を持つ。飲食業界とは無縁だったが、米サンフランシスコを訪れた際にウーバーの配車サービスを知り、フードデリバリーの起業を思いついた。3月には英フィナンシャル・タイムスが選ぶ「Europe's Fastest Growing Company2020」(欧州で最も早く成長中の企業)で初登場2位に選ばれた。

ミキ・クーシ氏
写真提供=Wolt Japan

「Wolt」はフィンランド語からの引用ではなく、特に意味のある言葉ではない。「『フード』を連想させない、短い響きの音を考えたらこうなった」(クーシ氏)。青字に白抜きのロゴマークは、ヘルシンキの空と雲をイメージしている。

クーシ氏31歳、副社長のマリアンネ・ビックラ副社長は28歳と、ウォルトの経営陣は若い。フィンランドでは、そういう若い才能を引き上げる風土があるという。

「フィンランドでは、ノキアが失速したことで多くの人材がスタートアップ企業に向かった。国全体が優れた才能の活用に前向きでゲーム会社のスーパーセルもその一つ」

スーパーセルは、2016年に中国のIT企業、テンセント傘下に入り、企業価値が約100億ドル(約1兆円)と評価されたモバイルゲーム企業。CEOのイルッカ・パーナネンはウォルトを資金面で支援、クーシ氏のメンター的存在でもある。