「スーパーで食材を買い料理する層」を新規開拓

実は東アジア圏での進出は日本が初めて。「アジアに進出するために日本を選んだのではない。日本が最初からターゲットだった」(クーシCEO)というこだわりを見せる。

これは日本が米国、中国に次ぐ世界第3位の出前市場とされており(UBS銀行推計)、フードデリバリーに市場開拓の余地があるとみたためだ。さらに「フィンランドと同じで人件費が高い」(同)という、一見マイナスの共通項を、プラスに転じる戦略に商機を見いだした。

「フィンランドは、人件費が高く、人口密度は低く、街のサイズは小さい。フードデリバリーのビジネスには『最悪の環境』だ。でも上手くやれれば、どこの国でも成功できる。日本で『アプリを使って30分で配達する』文化を根付かせるのは時間がかかるかもしれない。だが日本のフードデリバリーはまだ伸びる余地がある。スーパーマーケットで食材を買って、自宅で料理するような人たちを取り込みたい。(先行企業と)既存のパイを食い合うよりは、新規需要を開拓したい」

自転車で配達するウォルト
写真=iStock.com/Cineberg
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例えば各国のマクドナルドの時給を比較すると、フィンランドは1000-1200円前後、米国1000円前後、日本900円ほど。対してハンガリーなど旧東欧諸国は概ね300円台だ(ウォルト・ジャパン調べ)。高い賃金コストは経営を圧迫しかねないが、克服できれば強靭な体力となる。

その日本市場には初期投資で100億円を投入。これまでに展開した都市では進出後12~24カ月での黒字化を果たしている。現時点では欧米の主要各国への進出計画を明らかにしていないが、東京での成功を試金石とし、その先の展開を温めているふしがある。

アプリ分析調査会社「フラー」(千葉県柏市)によれば、国内におけるフードデリバリーアプリの月間利用者数は、上位5社(ウーバー・イーツ、出前館、楽天デリバリー、マックデリバリー、menu)の2020年11月時点の実績が前年同月比2.7倍。ウォルトは広島でサービスを開始した直後の2020年4月から、同11月までで5倍となった。

同社はアンドロイドユーザー約15万台を対象に、アプリの利用ログの推計値を調査している。シェアは2020年11月時点で、ウーバー5割超、出前館3割超と上位2社が8割以上を占めている。

フラーのアプリ関連メディア「App Ape Lab」の日影耕造編集長は「この1年は、エリア拡大と人々の生活様式の変化の両面で開拓余地が大いにあり、劇的な伸びが生じた。対象外のエリアが地方を中心に全国にまだまだ多数存在しており、2021年も開拓余地はある。ウォルトの利用者数の伸びは上位5アプリをしのぐ勢いがある。今後はアプリ内での『心理的な安心・安全』をいかに担保できるかといった、価格競争以外の部分で差別化が進む」と話す。