夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」。自民党内では、5年ごとに改定される第5次男女共同参画基本計画の原案をもとに賛成、反対の議論が活発化していたが、12月25日に閣議決定された計画では「夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方に関し、更なる検討を進める」という表現にとどめられた。早稲田大学などが行った調査によると7割以上が賛成しているこの制度だが、結果的に検討を進めることにとどまったのはなぜだろうか。橋本聖子内閣府特命担当大臣とジャーナリスト白河桃子さんの対談でお届けする——。

もっと踏み込みたかった。でも、8年ぶりに議論ができたことは収穫

【白河】今回、みなさんの声、特に若い人たちの声を優先して取り入れようという大臣の姿勢に私は非常に感銘を受けました。とくに選択的夫婦別姓について強く発言されていたと思いますが、今回の決定に関しては率直にどのようにお考えでしょうか。

内閣府特命担当大臣(男女共同参画)橋本聖子さん
内閣府特命担当大臣(男女共同参画)橋本聖子さん(撮影=遠藤素子)

【橋本】本心で言うともっと踏み込みたかった。ただ今までは自民党というところでは、いわゆる平場と言われる場所で、この問題を議論させてもらえることすらありませんでした。

【白河】議論自体が8年ぶりだそうですね。

【橋本】はい。党内では長く、議論もできていなかったのです。今回、第5次男女共同参画基本計画(5次計画)を策定するにあたり、今まで以上に若い人たちの関心が高いテーマにスポットを当ててつくっていこうと考えました。そうしないと、ますます若い人たちの政治離れが進んでしまいますし、自分たちの思いを政治に反映できるという実感を持ってもらわなければ、女性候補者も増えないからです。そういう思いもあって、この選択的夫婦別姓を盛り込み、議論を進めてきました。

「選択的夫婦別姓」表現の変化

この議論は、内閣第一部会と女性活躍推進委員会の合同部会でも大いに注目を浴びて、いちばん多いときで70人近い人数が集まりました。そもそも選択的夫婦別姓の話が出てきたのが約20年前。現職の国会議員もキャリアが10年ある人のほうが少ないので、初めてこういう議論に参加された方も多かったようですね。そこで推進派、慎重派、ともに議論していく中で「この制度がどういうものかを知った」「自分の考えていたこととイメージが違った」「そういうことであれば賛成」といった先生方の声もありました。これまで議論できなかったことが、久しぶりに大議論する場を自民党内につくってもらえたということは、大きな前進だと思っています。

その前進と同時に、5次計画では、もっと踏み込みたかったところもありました。けれども、それがなかなか難しかったというのが現状です。

菅総理も推進派の立場だったが……

【白河】菅総理も実は推進派と伺ったことがありますが……。

【橋本】今までの政治活動という意味では、賛成の立場にあったと言われていますが、今はやはり多くの議員、一人ひとりの考えをお聞きになる立場なので、慎重になるのは当然だと思います。

【白河】ただパブリックコメントでは400件以上の賛成の声が寄せられ、反対はありませんでした。ユース(U 30による#男女共同参画ってなんですか)の提言があり、私たち有識者も議論して決めたものが、ここにきてひっくり返るというのは残念です。第4次男女共同参画基本計画(4次計画)のときは「選択的夫婦別氏制度の導入」を検討する、と強い書きぶりでしたが、今回はより表現がマイルドになってしまいました。8年ぶりの議論ということですが、5年前の4次計画のときは、議論にならなかったのでしょうか。

【橋本】4次計画のときは直前に最高裁判決がありました。最高裁の判決を踏まえて進めるという書き方でしたが、合憲判決でしたので、党内でも議論がないまま、今に至ったのです。

ちなみに、今回の記述は、夫婦の氏に関する「具体的な制度の在り方」に関し、「更なる検討を進める」という表現になっており、「検討を進める」としていた4次計画から、議論が深まった成果と思っています。